<東北の本棚>震災時仙台映す証言集

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

<東北の本棚>震災時仙台映す証言集

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災の発生直後、沿岸部の津波被害があまりに甚大だったため、仙台市中心部の様子は多くは語られなかった。だが、電気、水道、ガスをはじめ、燃料などライフラインを全て断たれた街では、人々が何とか生活を確保しようと、必死に闘っていた。
 食料が手に入らない、あっても調理できない。厳しい寒さの中、暖を取ることもままならない。家庭や企業で、また避難所、医療・福祉施設で、誰もが追い詰められていた。
 ある青果店は、今日の食料もないという顧客の声に応えようと仕入れに奔走した。年老いた妻の透析用の燃料を求めて駆け回る夫、信号が止まった交差点で交通整理を買って出た市民がいた。給水車が来ても水を入れる容器がない。掲示板には「容器募集」の紙が張り出された。
 本書は、震災後間もなく仙台市の中心街に居合わせた人々の証言集だ。未曽有の災害にどう対処したのか。さまざまな思いや工夫が描かれる。タイトルには、次に災害が起きたとき仙台にいる人への伝言にしたいとの意味を込めた。
 インタビューを担当したのは東北学院大の学生と教員、市役所職員、一般参加者ら90人以上。膨大な証言によって、大震災に仙台という街が、どう立ち向かったかが浮かび上がる。
 行政の対応に問題があったことも明らかにした。避難所に市民が運び込んだ支援物資は「全員に行き渡るだけの分量がなく、不公平になる」との理由で受け取りを拒否されたり、廃棄されたりした。小学校の体育館に石油ストーブ2台を持ち込んだ人は「300人の避難者全員は暖まれない」と、受け取ってもらえなかった。
 震災の風化が指摘されている。将来必ず起きる地震にどう備えるべきか。次の世代に伝え、考えてもらうための貴重な「史料」と言えるだろう。監修者は1973年大阪府生まれ、被災当時は東北学院大准教授(社会学、民俗学)。
 ハーベスト社042(467)6441=1728円。

河北新報
2017年7月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク