佐々木譲・インタビュー 北海道には充分に濃密な歴史があるし物語も転がっている

インタビュー

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真夏の雷管 : 道警・大通警察署

『真夏の雷管 : 道警・大通警察署』

著者
佐々木 譲 [著]
出版社
角川春樹事務所
ISBN
9784758413077
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【特集 佐々木譲の世界】佐々木譲インタビュー 聞き手・杉江松恋(文芸評論家)

[文] 杉江松恋(書評家)

佐々木譲
佐々木譲

デビューから30年以上第一線で活躍してきた佐々木譲。冒険、サスペンス、歴史・時代、警察小説と多岐にわたるジャンルで常に挑戦し続け、二〇一六年第20回日本ミステリー文学大賞を受賞した。中でも、二〇〇四年刊行『うたう警官』(文庫改題『笑う警官』)に始まった、出身地である北海道という特色ある地域社会の現在を魅力的に描く社会派の警察小説は、二〇〇万部突破の大ヒットシリーズとなり、今なおファンを魅了し続けている。この北海道警察シリーズと、最新作『真夏の雷管』の創作秘話に迫る!

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杉江松恋(以下、杉江) これは佐々木さんの作品すべてにいえることですが、社会をさまざまな角度から観察し、さまざまな階層の人間を登場させる。そうした全体小説としての性格と警察小説の要素が合致していて、読み応えがあります。『真夏の雷管』も犯罪の背景にあるものが浮上してきた瞬間に「あ、そこを書くのか」という驚きがあり、堪能いたしました。また、北海道という特色ある地域社会の現在を魅力的に描くという要素も忘れてはいけない点です。毎回あの手この手で犯罪捜査を描いて〈道警〉シリーズでは読者を楽しませてくださいますが、今回の話がどういうところから生まれたものかを最初にお聞きしたいと思います。
佐々木譲(以下、佐々木) そもそもこのシリーズの最初は『笑う警官』に始まる三部作の構想だったんです。
杉江 不祥事の集団隠蔽工作に佐伯たちが立ち向かうというのが第一作でした。
佐々木 はい。それが途中から、警察小説が扱う可能性のある事件を順番に全部やって十作で完結という構想に変わったんです。『巡査の休日』はストーカー犯罪、『密売人』は連続殺人、といった具合に進んできて、今回は第八作ですが爆弾事件を書くというのは早くから決まっていました。シリーズの他の作品もそうですけど、いくつかの小さな事件が全然関係ないように見える形で発生して、あるところでパッとつながる。というのも主人公たちのセクションが、佐伯と新宮は刑事課盗犯係、津久井は機動捜査隊で小島は生活安全課、ということでバラバラですから、いきなり合流するわけがない。四人の警察官たちがそれぞれの抱える事件解決の為に非公式のチームを作り上げる、という形式を毎回踏襲しているのも他の人たちの警察小説にない、このシリーズの特徴ですよね。

杉江 彼らが小説の中でいつチームを組むか、という設計図は毎回おありなんですか?
佐々木 プロットを詰めていく段階で決めています。佐伯と新宮がいるのは不遇な部署で、今回は園芸店で肥料が盗まれるという本当に些細な犯罪の捜査に当たる。だけどシリーズの読者は、それが大きな事件に発展するはずだ、と予想してくれているはずなんです。だから冒頭からいきなり大事件を起こす必要はなくて、そんな小さなことがどんな風に発展していくの、という部分を楽しんでもらうように考えて作っています。もちろん『密売人』のように最初から殺人事件が起きているものもありますし、全部が同じパターンではありませんが、バラバラに見えているものが一つに集まっていくプロセスが基本にはなっていますね。シリーズの中で人気のあるサブプロットは新宮が合コンに行くという話なんですが、読者は「ほら、また呼び出しが来て駄目になるよ」と思って読んでいる(笑)。そういう部分も読者サービスのうちですから、繰り返して書くようにしています。
杉江 今回はJR北海道の構造不況が遠因となる犯罪を扱っています。現在進行形の深刻な社会問題であるわけですが、これは最初からプロットの中にあったのでしょうか。
佐々木 はい。北海道民としてはもちろん、JR北海道については思うところがある。また、せっかく北海道を舞台にしているわけですから、警視庁管内であまり起こらないような事件を扱いたいということもあります。例えば『巡査の休日』は「よさこいソーラン」というイベントを扱っていますし、北海道という面白い物語が転がっている地域を舞台にしている以上は、それらしい事件や素材を取り上げたいですね。

杉江松恋
杉江松恋

(北海道には)充分に濃密な歴史があるし物語も転がっているんです

杉江 僕の印象では一九九〇年代以降に書かれたミステリー作品においては、佐々木さんが率先して「地方」を描かれていた印象があるんです。もちろんそれ以前にもそういう小説はあるんですけど、北海道という地域の特性をご自分の描きたいものと融合させて書かれた方は佐々木さんより前にあまり例がなかったように思います。
佐々木 地元の人たちはウチのあたりは歴史もないし、とおっしゃるんですが、充分に濃密な歴史があるし物語も転がっているんです。『廃墟に乞う』(第百四十二回直木賞受賞作)はだからこそできた話で、作家にとってはあまり書かれていない物語がゴロゴロしているじゃないかという思いがあります。じゃあ、せっかくだから、警視庁管内の六本木は他の人が書いてくれればいいから、私は自分が住んでいる書けるところを書こうと。
杉江 ミステリーマニア的な見地から申し上げますと、今回の『真夏の雷管』の後半は列車の運行スケジュールが重要な意味を持つ展開になりますね。現代で時刻表を扱ったミステリーをやるとしたらこういう形があり得るんだ、とすごく新鮮でした。時刻表トリックが好きな人にぜひ読んでほしい(笑)。
佐々木 あ、そうか。爆弾事件と言うよりミステリーとしてはそうですね。たぶん大きなトリック上のミスはしていないと思います(笑)。ミステリー作家は、たとえば誘拐事件を書こうと思ったら現実の犯人以上にどうやって犯罪を成功させようかを考えるじゃないですか。エンターテインメントですから事件は起きてほしくないし、絶対に未然に防ぎたいんですが、今回も犯人の側から言えば、当然警察の動きは察知して、その裏をかいて目標を爆破したい。そこの手の読み合いで、時刻表を見ながら考え込みました。
杉江 もう一つは少年犯罪の問題が浮上してきますね。未成年犯罪と、保護者の育児放棄がプロットの中では重要な意味を持ってきます。そうした社会問題についてのくだりが浮き上がらず、小説の部品として綺麗に融合しています。特にプロローグは印象に残りますね。
佐々木 ありがとうございます。
杉江 先ほど、小さな事件が大きなものへと発展していくプロセスが読ませどころというお話があったと思うんですが、書き手としてはどこにいちばん体力を使われますか。話のピッチが上がる終盤なのか、それとも仕込みの段階の序盤なのか。
佐々木 最後の三分の一になったらもう勢いで行けますから、その前の三分の二、充分に伏線も張らなければいけない、という方が時間もかかるし、たぶん体力も使っていると思います。それは池澤夏樹さんがロケットに喩えておられましたね。ある高さまではブースターに押し上げてもらうが、あとは燃料の大部分を消費した方が軽くなった分飛んでいける、というようなことを創作法としておっしゃっていたと記憶しています。
杉江 なるほど、でも読者が読み終わったときに「ああ面白かった」って言ってくれるのは、その成層圏を脱した後のダッシュしている部分なんですよね。そこまでもっていくには一生懸命持ち上げないといけないのに。これは本当に実作者にしかわからないご苦労ですね。このシリーズは十作と決めておられると伺いましたが、今回が八作目でいよいよ終わりが見えてきました。残り二作の構想はもうできていらっしゃるんですか?
佐々木 はい。九作目ではこれまで扱ってこなかったんですが、札幌雪まつりが背景として出てくる予定です。十作目は、シリーズ全体の締めにふさわしい犯罪にしようと思っています。実は最初の三冊の中で、まだ解決していないサブプロットがあるんです。それを扱って、きちんと犯人も断罪して幕引きとしようと。すでに構想はできています。
杉江 実は日本の警察小説で数を決めて完結したものって、まだあまりないんですよ。大沢在昌さんの〈新宿鮫〉にしても十作まで行きましたけど、まだ続きはあるでしょうし。もしかすると、初の十作という構想のまま完結するシリーズになるのかもしれません。
佐々木 やりがいがありますねえ。見事に完結させてみせよう(笑)。

構成=杉江松恋/人物写真=三原久明/書籍写真=田中伸司

角川春樹事務所 ランティエ
2017年8月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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