これまで体験できなかった音の世界がわかる! 『童謡を聞くだけで音感が身につくCDブック』著者インタビュー

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これまで体験できなかった音の世界がわかる! 『童謡を聞くだけで音感が身につくCDブック』著者インタビュー

[文] リットーミュージック

友寄隆哉
友寄隆哉

音感を磨くことでこれまで体験できなかった音の世界がわかるようになって、素晴らしい音楽との出会いが多くなります。

リットーミュージックから発売された『童謡を聞くだけで音感が身につくCDブック』は、タイトルのとおり童謡や唱歌などの不朽のメロディを聞いているだけで、誰でも手軽に音感を身につけることができるという音感教育本だ。童謡や唱歌を題材とした理由は何か? ギタリストでもある著者、友寄隆哉に話を聞いた。

――童謡と唱歌が音感の教育に良いのはどういった理由からでしょうか?

友寄:子供たちのために、一流の詩人と作曲家がタッグを組んで、ドレミファソラシという7つの音の音階を使ったさまざまな組み合わせを考え、できるだけ短いメロディにそれを込めた曲というのは世界にも類例がないんですよ。また、これを義務教育という形で、国家レベルで啓蒙し、誰もが知るようになったという点でも、音感教育にはとても効率的なメロディです。テレビ、ラジオのコマーシャル・ソングは、さらに短いメロディですが、永続性がないので、なかなか不朽のものとなりません。

――収録曲には古いものが多いですが、音楽の構造に注目すると、現代の音楽とはどういった点に違いがありますか?

友寄:歌詞の言葉遣いの古さを除けば、音使いそのものに変わりはありません。短い、というのは大きな特徴です。現代の曲が、その長さから「小説」とすれば、明治時代の文部省唱歌は「短歌」、大正時代の童謡は「俳句」のようなものです。

――童謡や唱歌で音感が身につけば、今の音楽でも役に立つんですね。

友寄:そうです。現代のメロディの音程はわかるのに、古い時代のメロディの音程はわからない、ということがあったらおかしいですよね? メロディの流行り廃りはありますが、音程という点で見れば変わりはありません。現代の曲にこだわりたいなら、童謡、唱歌で、音程の基礎を学び、自分自身で、応用問題として、現代の曲を選んで学ぶこともできます。年輩の方なら、好きな演歌歌手の曲で学んでもいいでしょう。

――この本はどのように進めればいいでしょうか?

友寄:CDには、ドレミファソラシという音階の名前でメロディを歌う、「階名唱法」による歌が収録されています。自分が気に入った曲をよく聴いて、階名唱法で歌えるようになったら、毎日、口ずさんでみるといいでしょう。メロディを階名唱法で歌えると、より音程が良くなるので、階名唱法ができるようになってから、改めて歌詞を覚えて、その曲を自分のレパートリーにして、カラオケなんかで歌ってもいいと思います。難しいメロディの箇所は、階名唱法でチェックすると音が取りやすくなるんですよ。

――どんな人にお薦めですか?

友寄:このCDを流していたら、4歳の息子が、鼻歌風に階名唱法で歌い始めました。幼児から大人まで、この階名唱法の習慣が広がれば面白いですね。

――この本で音感が身につくとどんなことができますか?

友寄:私が、初めて音感に関する本を書いたのは、2011年の『大人のための音感トレーリング本』ですが、この本ではそれまで同じ領域に扱われていた「音感」と「リズム感」を切り離し、「音感」を音の高低の判別に特化しました。切り離されたリズム感に関しては、2014年に『日本人のためのリズム感トレーニング理論』という本に改めてまとめています。
 こうした「音の高低」という意味での音感を磨くことは、最終的には、歌がうまくなる、楽器が上達する、ということにつながります。音感が良いというのは、スポーツ選手でいえば、足が速かったり、身体が柔らかかったり、反射神経があるといった、基礎的な能力です。逆に、そうした基礎的な能力を育てずに、野球やサッカー、あるいは他のスポーツなどを好きになったからと頑張っても、多くは期待できません。トレーニングを重視せず、楽しみのためにやるものを、一般的には「草野球」とか「ヘボ将棋」などと言ったりするのではないでしょうか。

――スポーツでいう筋力トレーニングのような基礎練習が、音感を身につけることであるということですね。

友寄:近年で言えば、柔道や水泳のアスリートでも、ウエイト・トレーニング器具を使用して筋トレをやっていますし、音楽の筋トレと言ったらわかりやすいかもしれません。ただ、「音感」自体を競う競技が一般的にはないので、その大切さがわかりづらいだけです。実は、一般対象には音感を競う機会がありませんが、クラシック・オーケストラの指揮者のコンテストにはあるんですけどね。

――音楽を聴くだけの人にはどんなメリットがありますか?

友寄:音感を磨くと、これまで体験できなかった音の世界がわかるでしょう。現実には、「全音」と「半音」の違いや、音程の差もわからない音感で、どんな音楽を聴いても、真の意味での音楽の醍醐味はわかっていないのではないでしょうか。砂糖と塩の違いもあまりわからない舌で、世界中の料理を食べ歩いても、本当の意味の感動はないかもしれない、というのと同じです。

――音楽の味わい方が変わるんですね。

友寄:劣った能力のままの人は、音楽に対して批判が多くなり、優れた能力の人は、絶賛が多くなります。素晴らしい音楽との出会いが多くなるからですね。

――著者個人として、特に気に入っている曲はありますか?

友寄:「叱られて」です。制作していてわかったのですが、意外にも私の周りには、この曲を知っている人がいませんでした。なんと、CDで歌っている歌手本人も知らなかったんです! 個人的には、非常にスピリチュアルな曲だと思います。二十歳の頃、この曲を歌う、女性オペラ歌手の歌を聴いて、その歌詞に涙した覚えがあります。歌詞で涙した曲には、洋楽では、ホーギー・カーマイケルが作曲した「スターダスト」という曲がありますが、作詞は「ムーンライト・セレナーデ」の詞でも有名な、マイケル・パリッシュです。このように、歌詞から曲を好きになり、曲をもっとよく知りたくなって、メロディを階名唱法で歌えるようになるという順序でもいいでしょう。
 感動した歌詞の曲なら、メロディを覚えて、階名唱もできるようになりたい、という個人の習慣を持つことが日常的なトレーニングとなります。やがては、それが国民全体の文化として波及していったらと思います。

リットーミュージック
2017年8月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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