<東北の本棚>多様な日本掘り起こす

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列島語り

『列島語り』

著者
赤坂憲雄 [著]/三浦佑之 [著]
出版社
青土社
ジャンル
社会科学/民族・風習
ISBN
9784791769704
発売日
2017/04/21
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>多様な日本掘り起こす

[レビュアー] 河北新報

 民俗学者の赤坂憲雄福島県立博物館長と、古代文学者の三浦佑之元立正大教授の対談集。古事記、風土記、遠野物語をテキストに「日本」を見詰め直した。知見を寄せ合い、思索を深化させて日本文化の多様性を掘り起こす。過去の対談を再構成し、5章にまとめた。
 第1章は「出雲」を取り上げた。出雲大社(島根県)の起源といわれる古事記の国譲り神話の舞台となった出雲。三浦氏は「日本を考える上で出雲を捉え直すことは大事。天皇制や国家を読み替えることにつながる」と意義付け、出雲の側から古事記や風土記といった文献の読み直しを提起する。
 第3章で「語り」の面から古事記と遠野物語の特色を考察。天皇に殺されて滅び行く者に焦点を絞って語られているという古事記、多くの死者が登場する遠野物語。両氏は「死者と向き合い、鎮魂のために語られる」と捉える。
 古事記、日本書紀、風土記を論究した第4章では、双子のように扱われてきた古事記と日本書紀だが、三浦氏は「内容が全然違う。日本書紀は天皇の歴史をつくろうとした」と指摘。日本書紀にある「日本」という言葉は、古事記にはなくて「倭(やまと)」になる。赤坂氏は「『記紀神話』の名の下に相互補完の鋳型に封じ込めることよって、古事記の持つ毒やカオスを抜き取って、飼いならそうとしたのが、天皇をいただく近代国家だったのではないか」と解説する。
 律令国家の命で六十数カ国で編まれた風土記を赤坂氏は「日本列島の社会文化的な多様性がいたるところで露出している」とみる。
 第5章は海に光を当てた「もうひとつの列島」の姿を追う。遠野物語をテーマにした第2章では物語の出来上がる過程を語り合った。
 専門的な論考の行間ににじむのは、既成概念や既存の価値観に縛られない考え方の大切さ。現代の日本に求められる視点に違いない。
 青土社03(3294)7829=2160円。

河北新報
2017年9月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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