『日本語 笑いの技法辞典』
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【聞きたい。】中村明さん 『日本語 笑いの技法辞典』 287種の発想と表現にびっくり
[文] 産経新聞社
「作家の文章を分析していても、説明できないようなおかしみが出てくる。なぜそう思うのか、例を集めて考えてみたものです」
『角川新国語辞典』の編集委員などを務める日本語学者で、作家の文章を読み解く文体論の専門家。著作のもう一つの柱が「笑い」の分野だ。本書は笑いをテーマに『笑いのセンス』『吾輩はユーモアである』などを書き継いできた集大成。笑いの発想と表現を12類287種に分類し、小説や落語、漫才など具体的な例を引いて分かりやすく解説している。
言葉の繰り返しや婉曲(えんきょく)語法、比喩に駄洒落(だじゃれ)、誇張など。「少しでも手続きが違うと思ったら分けた。こんなに種類が多くなるとはびっくり」。配列は小手先の笑いから、人間存在や人生の不可思議を味わう深い笑いへと向かっていく。
索引を見ると夏目漱石、井上ひさし、サトウハチロー、井伏鱒二らの引用が多い。「井伏さんにインタビューしたとき、最初は視線も合わせてくれず、人見知りのひどい赤ん坊みたいでしたが、最後は独演会。非常なはにかみ屋で、人柄が笑いを誘うのでしょう」
ユーモアの中で最も人間的な深みのある笑いを、「ヒューマー」と呼んで最上位にした。本書の最後に登場するのが、徳川夢声の『こんにゃく随想録』で紹介されている話。マッサージで脂を散らし、かゆやビールで育て上げる松阪牛は、蠅(はえ)が止まっても尻尾で追わなくなると「御馳走(ごちそう)状態」と判断するという。
「非常に残酷だけど、哀(かな)しみとおかしみが背中合わせになっているようで、深いレベルのヒューマー」
今後は、極上のヒューマーだけを集めた小さな本を書きたいという。
「人間ってバカなものだなぁと実感する、あきれ笑いみたいなものがあると思う。笑いも高級になると、あまり笑えないものかもしれませんね」(岩波書店・3400円+税)
永井優子
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【プロフィル】中村明
なかむら・あきら 昭和10年、山形県生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了。国立国語研究所室長、早大教授など歴任、現在は早大名誉教授。『名文』『日本語レトリックの体系』など著書多数。