北朝鮮は決して孤立などしていない 古川勝久・インタビュー

インタビュー

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北朝鮮 核の資金源

『北朝鮮 核の資金源』

著者
古川 勝久 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103514114
発売日
2017/12/22
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

[古川勝久『北朝鮮 核の資金源 「国連捜査」秘録』刊行記念特集]古川勝久・インタビュー 北朝鮮は決して孤立などしていない

[文] 新潮社

古川勝久(撮影:新潮社写真部)
古川勝久(撮影:新潮社写真部)

――古川さんは4年半の間、国連による北朝鮮への制裁の実態を最前線で捜査していました。だからこそ伺いたいことがあります。2006年以降何度も、さまざまな制裁措置を科されているのに、北朝鮮はなぜ強力な核兵器や全米を射程に収めるミサイルを開発できるのでしょうか。

古川 一言で答えるなら、思いもよらないやり方で制裁の網の目をかいくぐり、世界中から金や最新技術をかき集めているからです。しかし、それらは単独ではなしえない。ほとんどの場合、海外に協力者がいます。

――思いもよらないやり方とは?

古川 たとえば、ミサイルや兵器の完成品を輸出するのではなく、部品と工作機械と技術者を輸出して現地で組み立てるといった手口です。部品は大量生産されている安価な市販品ですから、用途を偽れば貨物検査当局も見抜けません。

 北朝鮮が打ち上げた「ロケット」という名の弾道ミサイルでは、2000円程度でネットで購入できる中国製のCCDカメラも使われていました。ローテクでアメリカまで届くミサイルを飛ばす技術力は決して侮れません。

 ペーパーカンパニーを積み重ねて本体を隠す手口も良く使われますね。社名の語順を入れ替えてみたり、一文字増やしたり、一部違う単語を使ったり、それでいて英語名は同じ会社であることを印象づけるようなものだったり……つまり、名称を微妙に変えることで制裁対象企業とは別の法人格を装いながら“ビジネス”の継続性を担保しているのです。登記していない非正規の企業も少なくありませんから、実体や関連性をつかむのは容易ではありません。

――本の目次の直後に、詳細な「事件マップ」があります。北朝鮮が世界中に活動拠点を築き、非合法なネットワークを使って、戦闘機やミサイルまでも堂々と密輸していることに驚きました。

古川 パナマ政府が「アルマゲドン作戦」で摘発した事件ですね。キューバから北朝鮮へ向かう貨物船を検査したところ、船底に20万個の砂糖袋が詰めこまれていた。それを何日もかけて取り除いたら、重みでひしゃげたコンテナの中から分解された戦闘機やミサイルなどが見つかりました。両国は「北朝鮮で修理した後、キューバへ戻す予定だった」「兵器の所有権はキューバ政府が有しているから、北朝鮮への兵器の移転を禁じた国連の制裁には違反しない」と口裏を合わせましたが、北朝鮮による兵器のメンテナンス(maintenance)も禁止されています。するとキューバ政府は、北朝鮮に依頼した修理(repair)はメンテナンスとは異なるので、禁止された行為にはあたらないと言い出しました。中国やロシアに守られたこともあり、キューバはお咎(とが)めなしです。個人的には、エレベーターをメンテナンスしても修理しないような面倒くさい国には住みたくありませんね。

――制裁逃れを見過ごすどころか、擁護する国があると。

古川 看過や擁護の背景には必ず思惑があります。それは、利権だったり、メンツだったり、政治的動機だったりするのですが、彼らの“協力”が、北朝鮮の核兵器や弾道ミサイルの開発を可能にしているのです。

――いかに国連が制裁を決議しても、それを実行する加盟国がいい加減では実効性は期待できませんね。しかし、制裁強化だけで問題の根本が解決するわけでもないのでは?

古川 そのとおりです。制裁による「圧力」は、それ自体が目的なのではなく、相手に「理がない」とさとらせ、外交的な交渉の席につかせて問題を解決するためのものです。交渉のための時間を稼ぐという意味でも、圧力と交渉は両輪であり、どちらが欠けても問題の解決はうまくいきません。

 ところが、非常に残念なことに、中ロをはじめ、あまりに多くの国々が自分本位の理由を口実に制裁の履行を怠ってきました。その結果、北朝鮮の挑発に歯止めが利かなくなってしまい、制裁が実効性を欠いたまま強化される事態を招いています。それはいわば「見せかけ」の制裁であり、「最大限の圧力」を掲げる日本も例外ではありません。

 私は本書を、単独での内偵シーンから書き始めました。場所は新橋の駅前ビル。永田町や霞が関の目と鼻の先に、北朝鮮の非合法ビジネスを差配するエージェントが堂々とオフィスを構えていたのです。東京のど真ん中にぽっかりとあいた抜け穴は、あまりに象徴的でした。

 なぜ武力紛争が懸念されるまで事態が進行してしまったのかを、本書を通じて多くの人に知ってほしいと願っています。

新潮社 波
2018年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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