『新・日本の階級社会』
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「非正規の一掃」を総理が叫ぶ理由
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
貧困、格差、階級の視点で早くからニッポンの問題、課題を指摘し続けてきた社会学者の新著――と紹介すれば、「また統計盛りだくさんでリベラル寄りだろ」と勘繰られそう。いや、一面そのとおりではあるんですが、橋本健二の『新・日本の階級社会』、食わず嫌いはもったいない。
データはいろいろ紹介されるけれど、その読み解きこそが読みどころ。格差の拡大や階級の復活を再確認するなかで、労働者階級よりさらに下に回る「アンダークラス」が900万人以上いるという、コトの重大さも痛感させられる。
一方、統計ベースで組み上げていく階級・性別ごとの人物類型は的確だったり意外だったりで笑えるほどゆえ、思い出したのは昔懐かしい
(金)(ビ)の『金魂巻』。専門書の水割りのような辛気臭い学者新書に陥らないのは、著者が街歩きや居酒屋を切り口にした本も出してるせいか?
もうひとつ、この本のリベラルっぽさも、ワタシには気にならなかった。格差の拡大だ固定だについては問われるべき政治的責任があるし、著者自身、「心ある社会学者」として弱者に目が向きがちになる結果、研究が政治性を帯びることもあると文中で認めてる。
それどころか、この新書のインチキでないリベラルさには、インチキな保守を炙り出す利器になる目さえある。アンダークラスを生み出した非正規労働を一掃すると、あの総理が年明けの演説でブチ上げてみせるほどの国難なんですから。