『オンブレ』
- 著者
- Leonard, Elmore, 1925-2013 /村上, 春樹, 1949-
- 出版社
- 新潮社
- ISBN
- 9784102201411
- 価格
- 605円(税込)
書籍情報:openBD
久々のウエスタン小説に興奮 村上春樹、渾身の訳業
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
隆慶一郎がしばしば「レナードの小説に登場する悪党たちは面白くて仕方がないね」といっていた、エルモア・レナードの作品が翻訳されるのは、一体、何年ぶりのことであろうか。しかも現代小説ではない。初期に書かれた西部小説である。
戦後、あれほど西部劇が公開されたにもかかわらず、わが国では、西部小説を出した出版社は必ず潰れるといわれたほど小説は売れなかった。
挙句、西部小説の古書価は高騰するばかり。大枚はたいて買った「真昼の決闘」の原作が映画とあまりに違うので仰天したのを覚えている。
辛うじて命脈を保っていたのが、ハヤカワ文庫から刊行されていた西部小説の名作集『駅馬車』(アーネスト・ヘイコックス他)や『シェーン』(ジャック・シェーファー)等だが、現在絶版。やはり、映画絡みのものが多かった。
今回訳出された『オンブレ』もそうで、長篇「オンブレ」と短篇「三時十分発ユマ行き」が収録されている。
後者については、「ミステリマガジン」で訳出されているが、もはや古本屋でバックナンバーを捜す気力もなく、手軽に入手できるようになって嬉しい限りだ。
“オンブレ”とはスペイン語で男という意味で、悪党どもと火花を散らす伝説の男、主人公であるジョン・ラッセルを示している。こちらはポール・ニューマン主演で「太陽の中の対決」として映画化された。
一方、切れ味良い短篇「三時十分発ユマ行き」は、グレン・フォード主演で「決断の3時10分」として映画化され、近年、ラッセル・クロウ主演で「3時10分、決断のとき」としてリメイクされているので御記憶の方も多いだろう(但し、オリジナルには遠く及ばず)。
それにしても、久々に読む西部小説に興奮しつつも、どこかクールな、所謂レナード・タッチに往事を回想するのは、村上春樹渾身の訳業のおかげだろう。
これでハルキストが全員この一巻を買えば、日本でも西部小説が売れる!? ということになるんでしょうが、さて、いかがあいなりますか。