<東北の本棚>民主主義つなぐバトン

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憲法とみやぎ人

『憲法とみやぎ人』

著者
大和田雅人 [著]
出版社
河北新報社
ISBN
9784873413693
発売日
2018/01/22
価格
1,650円(税込)

<東北の本棚>民主主義つなぐバトン

[レビュアー] 河北新報

 戊辰の役が起きて150年になる。新政府側によって「白河以北一山百文」と嘲笑された東北の地から、民衆の側に立って民主主義社会を形づくろうとした人々が数多く輩出された。本書はそのような宮城ゆかりの先人たちに光を当て、事績を探る人物探訪記であり、デモクラッツ列伝でもある。
 登場人物は18人に及ぶ。いずれも、きら星のごとく時代を照らした気骨の持ち主で、幕末に世界一周した玉虫左太夫や、民主憲法を起草した千葉卓三郎から、現代の俳優菅原文太、さらには作家の井上ひさしまで、どの人物についても楽しく読める近代日本の手引書に仕上がっている。
 立憲主義、憲法を横串にして郷土の人物を描く。そういう趣旨の著作物は、ほかに例を見ないのではないか。
 政治は国民を基とすると考える民本主義の吉野作造を、著者は「明治憲法下の天皇中心の時代であっても緩やかで実質的な民主主義はできると説き、新しい絵を描いた」と評する。弟子で旧制二高の後輩でもある憲法学者の鈴木安蔵と政治家鈴木義男は戦後、国民主権をうたう今の日本国憲法の制定と深い関わりを持つ。それは2人が吉野の思想を受け継ぎ、戦前に一度は消えた灯を再びともしたことを意味する。まさにバトンリレーが行われたのだった。
 憲法に関して積極的に発言した井上ひさしも大正デモクラシーを評価し、作品群にも登場する。改めて感じるのは人をつなぐ「一本の線」の不思議さ。それを軸にして相互に影響し合い、自由でリベラルな社会を目指した。立憲主義が曲がり角に差し掛かる中、登場人物に学ぶ点は多い。現代の行く末を考える上でも貴重な視点を与えてくれるだろう。
 河北新報出版センター022(214)3811=1620円。
評・永澤 汪恭(「吉野作造通信」を発行する会事務局長)

河北新報
2018年2月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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