<東北の本棚>ドラマを超える面白さ

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<東北の本棚>ドラマを超える面白さ

[レビュアー] 河北新報

 悠久4000年の中国史を女性に着目してひもとく。従来、歴史は為政者たる男性を中心に淡々と記録されてきたが、その内実は欲望と嫉妬、陰謀、復讐(ふくしゅう)が織りなす人間ドラマ。王朝の興亡に見え隠れする男女や家族のありようには、ワイドショーやドラマをはるかに超える面白さがある。
 史上唯一の女帝、則天武后は名君とされる唐の2代皇帝太宗の側室だった。太宗の死後、その息子である高宗に取り入り、皇后らを処刑してその座を奪い取る。高宗に代わり政治に介入すると、数百人の貴族高官のほか実子である皇太子も殺害し、専横を極める。
 一方で44年間の在位中は才能本位の人材登用を貫き、朝鮮半島やインドシナ半島北部を制圧。大唐帝国黄金期の礎石を固めた。さらに「英雄、色を好む」の女性版ではないが、晩年まで複数の愛人を抱えていたという。良くも悪くも人物のスケールの大きさに驚く。
 他にも「酒池肉林」「傾国」など現代に生きる成句の由来を物語る興味深い史実が満載だ。
 著者は1929年横手市生まれ。時事通信社仙台支社長や東日本リサーチセンター特別顧問を歴任したジャーナリストであり中国史研究者。著書に「中国史に学ぶ人間学」など。本書の脱稿直後に死去した。
 高陵社書店03(3234)8110=1836円。

河北新報
2018年2月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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