賞に恵まれなかった人を評価の「芸術選奨」 今年は「金井美恵子」〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

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カストロの尻

『カストロの尻』

著者
金井 美恵子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103050056
発売日
2017/05/31
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

賞に恵まれなかった人をきちんと評価していて好印象

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 芸術方面で優れた業績を挙げた者、またはその業績によってそれぞれの部門に新生面を開いた者を選奨し、芸術選奨文部科学大臣賞及び同新人賞を贈ることによって芸術活動の奨励と振興に資することを目的に、一九五○年度に発足したのが「芸術選奨」。顕彰の対象になっているのは、演劇、映画、音楽、舞踊、文学、美術、放送、大衆芸能、芸術振興、評論等、メディア芸術の十一部門です。

 文学部門の現在の選考審査員は、尾崎真理子、澤好摩、島田雅彦、鈴木文彦、永田和宏、平出隆、三浦雅士の七名。十名からなる推薦委員と共に挙げた候補のうち一次で残った、八作前後の最終候補から受賞者を決めるというシステムになっています。賞金は大臣賞に三十万円、新人賞に二十万円と、出版社が主催する文学賞に比べてささやか。

 が、しかし、トヨザキはこの賞に対し、好印象を抱いております。その理由は、素晴らしい作品を発表しているにもかかわらず、なぜか賞に恵まれない作家を、しばしばすくい上げてくれ、かつ、小説家だけでなく、詩人や俳人や歌人の業績もきちんと評価しているから。

 当欄では、そのすべての例を挙げることはできませんが、一度、歴代受賞者をチェックしてみて下さい。わたしの言っていることにうなずいて下さるはずです。だって、今年度(第六十八回)の結果がまさに、そのケース。金井美恵子『カストロの尻』(同時受賞は松家仁之の『光の犬』)の受賞に快哉を叫ぶ小説好きは多いのではないでしょうか。金井作品の数々は、誰がどう読んだって、現代日本文学における最高峰に君臨しているにもかかわらず、なぜか、本当になぜなんだか、大きな文学賞を受賞してこなかったんですから。

 二つのエッセイと十篇の小説を収録した『カストロの尻』は、かつて読んだ本、観た映画、目にした光景、耳にした音、かいだ匂い、知性と五感でつかんだ記憶の数々を、作品の中に効果的に織りこむ金井氏の名人芸が堪能できる一冊。この傑作短篇集を顕彰できた芸術選奨はえらいっ! 本誌読者の皆さんも、この受賞を機に、ぜひ金井作品に親しんでみて下さい。

新潮社 週刊新潮
2018年4月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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