ウルトラ愛がスパーク! オール怪獣小説総進撃

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  • 多々良島ふたたび
  • MM9
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ウルトラ愛がスパーク! オール怪獣小説総進撃

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 吠えるぞ怪獣への愛、燃やすぞ空想科学特撮への愛。作家陣の総力を結集して贈る、紙上オール怪獣総進撃ここに完成……と昭和の映画宣伝のように紹介したくなるのが『多々良島ふたたび ウルトラ怪獣アンソロジー』である。

 本書は円谷プロが制作した特撮TV〈ウルトラ〉シリーズに登場する怪獣を題材に、七人の作家たちがオマージュを捧げた怪獣小説アンソロジーなのだが、もう執筆陣のウルトラ愛が半端ではない。

 なかでもはじけているのが山本弘による表題作だ。多々良島とは「ウルトラマン」第八話に登場する怪獣だらけの無人島。シリーズ屈指の人気エピソードの舞台を再び探訪するという、ファン泣かせの話と思っていたらさらにディープなネタを仕込んでいてびっくり。〈ウルトラ〉シリーズを使ったどんでん返し小説ですよ、これ。

 かと思えばホラー作家、三津田信三は「ウルトラQ」の持つ怪奇幻想の世界観を見事に蘇らせた「影が来る」を描き、藤崎慎吾はSFヒーロードラマの傑作「ウルトラセブン」をシュールな物語に仕立てた「変身障害」を描き、と各々が持ち味を生かして〈ウルトラ〉シリーズを再現する。本書は偉大なる空想科学物語の先達、〈ウルトラ〉シリーズへの返礼であり、挑戦であるのだ。

 怪獣愛、特撮愛に溢れた小説といえば先にも触れた山本弘「MM9」シリーズ(創元SF文庫)である。怪獣の存在が地震や台風といった自然災害と同じ扱いをうける現代において、気象庁に設置された怪獣対策専門の部署“気特対”の活躍を描くシリーズだ。正統的な怪獣ものにお仕事小説の要素を組み合わせた、日本怪獣小説史上のマスターピースである。

 同じく怪獣映画へのリスペクト小説では大倉崇裕『BLOOD ARM』(角川文庫)もお薦めだ。巨大触手を持つ生物が襲う怪獣パニックもののお手本のような展開だけれども、途中から「あんなもの」がいきなり飛び出す辺りで、全身の血が沸き立つはず。いろいろ愛が溢れすぎだよ、この小説。

新潮社 週刊新潮
2018年7月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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