『その悲しみに寄り添えたなら』
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<東北の本棚>命と向き合う思い深め
[レビュアー] 河北新報
仙台市の臨床宗教師の著者が、資格を得るまでの様子やスピリチュアルケアの現場などを実話に基づいて描いたコミックエッセーだ。人の苦悩や悲嘆に寄り添おうとする著者の誠実さと優しさがにじむ。
著者は息子が脳の病気にかかったことなどを機に、臨床宗教師になろうと決意。臨床宗教師とは宗教者が布教を目的とせず、宗教の枠を超えて災害の被災者や終末期患者らと向き合う心のケアの専門家だ。
著者は僧侶という立場から心を整えてきたが、研修で出会った人との関係を通じ、自らの半生や心を見つめ直す。そこで著者は真剣に命と向き合う思いを深めていく。
さまざまな人間のやり場のない感情を受け止める役割の難しさと重要性が伝わってくる。さらに自分や相手を信じ、愛し、肯定することの大切さにも気付かせてくれる。「目の前の誰かの『大切な思い』に全力で寄り添える存在であるために私は居たいんだ」。このセリフが、漫画を象徴的に物語っている。
漫画を描くことが得意な著者は「漫画の方がいろんな人に読んでもらえる機会があるのではないかと思った」と話している。
著者は1978年十和田市生まれ。東北大文学部で宗教学を学んだ。
イースト・プレス03(5213)4700=1080円。