『雪かきで地域が育つ』
- 著者
- 上村 靖司 [著、編集]/筒井 一伸 [著、編集]/沼野 夏生 [著、編集]/小西 信義 [著、編集]
- 出版社
- コモンズ
- ジャンル
- 社会科学/社会
- ISBN
- 9784861871566
- 発売日
- 2018/10/31
- 価格
- 2,420円(税込)
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<東北の本棚>住民主体の挑戦が力に
[レビュアー] 河北新報
雪国の住民にとって雪は生活を不便にし、発展を阻害する「厄介もの」。しかし悩んでばかりもいられない。雪かきの重労働を逆手に取り、地域づくりにつなげる試みが各地で行われている。本書はその具体例を示しながら「スノー・イノベーション」の可能性を探る。
滝沢市の上の山団地では長年、行政に対する雪処理の苦情が絶えなかった。除雪車が通った後の車道には雪のわだちができ、家々の玄関先には凍った雪の塊が残るためだ。業を煮やした自治会は議論の末、国土交通省の助成金で除雪車を確保した上で「まごころ除雪隊」を結成した。「行政任せ」から脱却した活動は定年後の生きがいを生み、互いの連帯感をも強めた。
酒田市日向地区と鶴岡市三瀬地区は自治体の枠を超えた労力交換の仕組みを築いた。一方が除雪組織を「輸出」する代わりに、他方は別の時期に空き家掃除などの人手を差し出す。補完し合う関係が幅広い交流を育んだ。新潟県では住民が非豪雪地帯から来る人々に「雪かき道」を伝授。「よそ者」を巻き込むことが除雪を「つらい」から「楽しい」に変えたという。
雪国には元来、住民同士の欠かせない「共助」があった。昭和30年代まで、積雪の朝は自宅から隣の家まで住民が「道踏み」をするのが暗黙の了解だった。共通の困り事を互いの力で解決するプロセスこそ、地域コミュニティーを醸成する重要な役割を担っていた。
各地の活動はある意味、こうした共助の関係を時代に合った形で取り戻す試み。無論、労力の安定確保や費用の問題など課題は残る。しかし克雪への取り組みが住民の主体性と創意工夫を生み、新た交流を創出する。決して悲観的でなく、むしろ軽やかに挑戦する人々の姿に地域づくりのヒントを見いだしたい。
現場のリポートに加え、研究者らが活動のキーワードや今後の展望をまとめている。
コモンズ03(6265)9617=2376円。