宇宙の始まりはビッグバンではない! 宇宙物理学者の吉田直紀が研究の最前線を語る

インタビュー

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地球一やさしい宇宙の話

『地球一やさしい宇宙の話』

著者
吉田 直紀 [著]
出版社
小学館
ジャンル
自然科学/天文・地学
ISBN
9784093886369
発売日
2018/12/12
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

宇宙の始まりはビッグバンではない! 宇宙物理学者の吉田直紀が研究の最前線を語る

[文] 中野富美子

はじめに「宇宙卵」があり、それが爆発して宇宙が生まれた――。子どものころ、そう書かれた本を読んだ人もいるはず。でも、最新の学説では「宇宙は真空のゆらぎ」から生まれたらしい。真空という何もないところから宇宙が生まれたなんで、信じられない! 数々の宇宙の謎を解き明かしてきた吉田直紀さんに、最新学説を聞いてみた。

天の川銀河(右)とアンドロメダ銀河(左)は衝突することが確実視されている。これも重力の影響だ(NASA; ESA; Z. Levay and R. van der Marel, STScI; T. Hallas; and A. Mellinger)
天の川銀河(右)とアンドロメダ銀河(左)は衝突することが確実視されている。これも重力の影響だ
(NASA; ESA; Z. Levay and R. van der Marel, STScI; T. Hallas; and A. Mellinger)

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宇宙の美しさに惹かれて天文少年に

◎――吉田先生は、子どものころから宇宙に興味をもっていたのですか?

吉田 小学校に上がったころから、科学全般に興味があったのですが、どちらかというと虫や動物といった生物系ではなくて、ツタンカーメンなどの考古学や天文学分野が好きでしたね。
 宇宙に興味をもったのは、ビジュアルに惹かれたからです。星雲とか銀河といった美しい天体写真を図書館で見て、「きれいだなぁ」と思って……。
 小学校の5年生のとき、父親に天体望遠鏡を買ってもらってからは、天気のいい夜はいつもベランダに持ち出して、星の観察ノートもつけていました。
 小学校の卒業文集には、「将来の夢は宇宙飛行士」と書いた記憶があります。

◎――東京大学では「航空宇宙工学」を専攻されました。これは宇宙に関連していますが、大学院(スウェーデン王立工科大学)では、応用数学を研究されたのですよね。

吉田 応用数学というのは、さまざまな方程式などについて、基礎となる解があるかとか、似たような方程式があるかなどを研究するのですが、とても抽象的な研究です。
 もちろん、興味があったから専攻したのですが、博士課程(ドイツのマックスプランク宇宙物理学研究所)に進むときに、もう少し具体的な対象がいいなと思い、その対象として、子どものころから好きだったテーマである「宇宙」に戻ってきたんです。

◎――宇宙に関連する学問で、一般の人がまず思い浮かべるのは天文学だと思いますが、先生のご専門である「宇宙物理学」とはどんなものですか?

吉田 「宇宙物理学」は、宇宙のさまざまな現象を、物質の基本的な法則や性質など物理の理論をもとにして研究する学問です。
「天文学者は宇宙を観測する」といわれることもありますが、いまや両者の違いはあまりありません。天文学者が理論研究をすることもあるし、宇宙物理学者が観測をすることもあります。
 大学など日本の研究機関では、天文学は「天文学科」、宇宙物理学は「物理学科」に分かれていますが、海外では「physics & astronomy」として一体化しています。むしろ、「惑星」とか「ブラックホール」といった研究対象の違いで分けるのが普通ですね。

「宇宙はビッグバンで始まった」は間違い

◎――ここ数年で大きなニュースになった宇宙の話題といえば、ニュートリノとか重力波ですね。どれも難しい印象があって、いまひとつ、ちゃんと勉強しようという気になれないのですが……。

吉田 ニュートリノなどの素粒子は、物質の起源など根源的な事柄に関わるものですから、「Aがわかれば、Bがわかる」と、単純にいうことはできません。だから、余計に難しく感じられるのかもしれませんね。
 でも、宇宙の話は、量子――素粒子など、それ以上分割できない物理的な最小単位――や、相対性理論のさわりだけでも知っておいたほうが、よりおもしろく感じられると思います。
 たとえば、「宇宙の始まりはビッグバンではない」といったら、驚かれる方が多いのではないでしょうか。
 物理学で扱う「真空」とは、粒子が反粒子とのペアで生まれては瞬時に消滅しており、平均すると何もないという状態のことで、宇宙が誕生するときも同じような状態にあったと考えられています。そして、ものが生まれては消える状態を「真空がゆらいでいる」といい、あるときそのバランスが大きく崩れて宇宙が生まれたと考えられているのです。
 誕生したあと、一瞬にして無限の大きさになった宇宙は、その後、物質のもととなる素粒子や光を生み出し、超高温になってさらに膨張します。それが、ビッグバンなのです。

◎――そう聞くと、興味が湧いてきますね。吉田さんの著書『地球一やさしい宇宙の話』では、「重力」がキーワードになっていますが、そもそも重力の正体がわかっていないということも書かれていました。

吉田 そうです。重力のはたらきがどのようなものなのかも、じつはよくわかっていないのです。

◎――日常生活で重さを感じているのに、その仕組みがわかっていないのは不思議ですね。

吉田 ただ、私たちも、地球も、そして宇宙も、重力の恩恵を受けていることは確かです。地球が太陽の周りを回るのも、ぼくたちが暮らす太陽系が銀河系から放り出されずにいられるのも、宇宙がいまの構造になったのも重力のおかげです。いわば、「宇宙は重力の賜」なのです。
 その重力は、高校までは、「下向きの力」として教えられていますね。重さのあるものは下――地球の中心に向かって引かれる、というわけです。
 でも、宇宙には上も下もありません。ぼくたち宇宙物理学者は、重力を「空間のゆがみ」としてとらえます。

◎――相対性理論ですね。私たち一般人には、ちょっとハードルが高すぎるのですが……。

吉田 「時間と空間がゆがむ」とか、「時間が負に流れる」などという話を聞くと、「それはおもしろい」と思う人がいる一方で、数学的な話を毛嫌いされる人もいますね。宇宙に関する、不思議でおもしろい話にたどり着く前に、シャッターを下ろしてしまう……。
 それではもったいないので、私の書いた『地球一やさしい宇宙の話』では、月や太陽といった身近な天体を入り口に、数式を使わないで、相対性理論や量子力学、そしてブラックホールまでをスッキリと説明したつもりです。

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<プロフィール>
吉田直紀(宇宙物理学者)
1973年、千葉県生まれ。東京大学工学部航空宇宙工学科卒業、同大学院工学系研究科修了。2002年、マックスプランク宇宙物理学研究所(ドイツ)博士課程修了。ハーバード大学天文学科博士研究員、名古屋大学助教等を経て、東京大学大学院理学系研究科教授(現職)。カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員も兼任する。宇宙論と理論天体物理学の研究に従事し、スーパーコンピュータを駆使してダークマターやダークエネルギーの謎に挑んでいる。著書に『宇宙137億年解読』(東京大学出版会)、『宇宙で最初の星はどうやって生まれたのか』(宝島新書)、『ムラムラする宇宙』(学研)などがある。

インタビュアー 中野富美子

小学館
2019年2月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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