『現代語訳 童子百物かたり』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
<東北の本棚>好奇心をくすぐる世界
[レビュアー] 河北新報
米沢藩校「興譲館」の学館役方などを務め、上杉鷹山に仕えた藩きっての学者、吉田綱富(1756~1849年)が、孫やひ孫に語り聞かせた昔話の現代語訳版だ。時代を超えて変わらない、子どもの好奇心に応える物語世界が広がる。
酒田のうそこき名人、人魂を見た話など定番を収める。鬼神の酒呑(しゅてん)童子は越後(新潟県)の生まれとし、設定に米沢藩を巡る地理が反映されている。
ユーモアと処世訓にあふれるおはなしも盛り込まれている。墓所にくいを打とうとしても「魔がさしてできない」というタブーに関する逸話が典型だ。
恐れを知らない男がくいを打って帰ろうとすると、何者かが後ろからしっかり押さえて引き戻す。男は「やはり魔がさしたか」と気味悪がるが、着ていたみのをくるみ、くいを打ち込んでいたとの落ちがつく。
昔語りをせがんだ孫やひ孫が、そのまた孫らに伝え聞かせる話の種になればと願い、書きつづられた。綱富自身や先祖、周囲の体験談には年代が伝えられる逸話も多く、民俗資料としての価値もある。
訳者は米沢市出身で、綱富から6代目。和尚に化けた古老のキツネは鉄砲で撃てなかった話などを、幼少時に父から聞かされた。綱富の本書について、学生時代からの研究が結実した。
七月社042(455)1385=2484円。