本国フランスより翻訳が先に出版! ポール・アルテ5年ぶりの新作

レビュー

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金時計

『金時計』

著者
ポール・アルテ [著、イラスト]/平岡敦 [訳]
出版社
行舟文化
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784909735010
発売日
2019/05/25
価格
1,760円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ミステリーファン待望フランスの巨匠5年ぶりの新作

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 最近の海外VIPの来日といえば、誰しも思い浮かべるのは米国大統領だろうが、ミステリーファンにとってはこの人、ポール・アルテ。五月末に東京と大阪で日本作家とのイベント等をこなしたが、今回紹介するのはそのアルテの五年ぶりの新作、本国フランスより翻訳のほうが先に出るという話題の長篇だ。

 一九九一年六月、劇作家のアンドレ・レヴェックは新作に取り組むもスランプに陥っていた。彼は少年時代に見た映画の予告篇に強い影響を受けていたが題名がわからず、それが強迫観念となり創作の妨げになっていた。妻のセリアは近所の老婦人から同じ村に住む精神分析家のアンブロワーズ・モローを紹介してもらい、謎の映画探索が始まる。アンドレの脳裏に焼き付いていたのは雨の中、老女が歩道の鉄柵の向こう側に金時計を落としてしまう場面だった……。

 アルテは巨匠ジョン・ディクスン・カーの薫陶を受けたフランス本格ミステリーの旗手。中でも犯罪学者アラン・ツイスト博士ものが著名だが、本書はそれと並ぶ人気シリーズ、名探偵オーウェン・バーンズもの。しかしその時代背景は二〇世紀初頭だったはず。実は本書は二部構成で、レヴェック夫妻の映画探索と並行して、一九一一年冬、ロンドンで商社を営む女社長の田舎の別荘で起きた“雪の密室”殺人の顛末が描かれていく。バーンズと相棒アキレス・ストックはそちらで名探偵ぶりを発揮する。

 むろん各々が最終的にどう結びつくかがポイント。謎解きのみならず、サスペンス演出、怪奇演出にも特徴があるアルテ作品だが、今回はファンタジー色も織り込まれた。昨年翻訳され話題を呼んだ『あやかしの裏通り』とはまたひと味違った趣向が堪能できよう。本シリーズの刊行は今後も継続予定というのも嬉しい。なお、版元は福岡の小出版社。販売書店は限られるのでhontoやAmazon等でのネット購入がお奨めだ。

新潮社 週刊新潮
2019年6月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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