『みどり町の怪人』
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この町には、怪人がいるのかもしれない――『みどり町の怪人』著者新刊エッセイ 彩坂美月
[レビュアー] 彩坂美月
子供の頃から、怖い話や不思議な話などが好きでした。
友達の間で秘密めかして囁かれる怪談や、不気味な噂話。「暗くなったら外で遊んじゃいけないよ」と真顔で繰り返す大人たち。暗くなってから外に出たら、そこには恐ろしいものが密やかに蠢(うごめ)いていたりするのだろうか……? などと自然に想像がふくらみました。
遅い時間まで友達と外で遊んだときや、習い事を終えた夕暮れの帰り道、いつものあの角を曲がったらひょっとして見知らぬ何かと出くわしてしまうかもしれない、という、説明しがたい不安と期待に胸がどきどきしたのを覚えています。
月日が経ち、私は不条理な謎が鮮やかに解体され、たった一つの美しい答えだけが残される〈ミステリ〉というジャンルに魅せられて推理小説を書き始めました。
けれど、合理的に割り切れない、滲(にじ)み出る不穏な何かに強く惹かれる気持ちもあるのです。『みどり町(ちよう)の怪人』はそんな怪しいものに対する愛着がきっかけで生まれたお話です。
本作の舞台となるみどり町は、地方のどこにでもありそうな小さな町。けれど、この町には、奇妙な噂が存在します。
「〈みどり町の怪人〉が現れて、女性や子供を殺す――」
作家デビュー十周年、令和になってから出す最初の本。そんな数字上の記録は、おそらく読み手にとって(書き手にとっても)さほど意味を持たないものかもしれません。
それでも、時代の変わり目である今、このお話を書かせて頂けたことには何らかの意味があったように思います。原点、などという表現はひどく口はばったいですが、暗闇の向こうに屈託なく想像を巡らせる気持ち、をこれからも大切にしながら書いていきたいです。
ページをめくって、ぜひみどり町へとお越しください。読み終えて振り向いたとき、あなたの後ろに怪人がいる……かもしれません。