いわば「文学運動」でもあった日本SFが根を下ろすまでの回想記

レビュー

5
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日本SF誕生

『日本SF誕生』

著者
豊田有恒 [著]
出版社
勉誠出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784585291848
発売日
2019/07/31
価格
1,980円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

いわば「文学運動」でもあった日本SFが根を下ろすまでの回想記

[レビュアー] 碓井広義(上智大学文学部新聞学科教授)

 早川書房が『SFマガジン』を創刊したのは1959年だ。60年代初頭は日本SFの草創期にあたる。著者をはじめ当時の書き手たちは、米国の作品に導かれて新たなジャンルに足を踏み入れ、やがて独自の世界を構築していった。本書はその「苦闘と、哀愁と、歓喜の交友」の物語であり、「日本SFが根を下ろすまで」の貴重な回想記である。

 約60年前、SFはどんな位置にあったのか。著者が、『夕ばえ作戦』などで知られる作家、光瀬龍の言葉を紹介している。曰く「SFは、二つの偏見の狭間(はざま)にある」と。それは「くだらないもの」と「難しいもの」というネガティブな評価だった。SFは、それまでにないものを生み出し広めていく、いわば「文学運動」でもあったのだ。

 SFでは食べられなかった頃の作家たちを支えたものの一つが、当時誕生したテレビアニメだった。63年、著者は『エイトマン』で「アニメのオリジナル脚本家の第一号」となり、『鉄腕アトム』にも参加した。65年の『スーパージェッター』には、著者の他に筒井康隆や『ねらわれた学園』などの眉村卓も名を連ねている。SFは「活字と映像の垣根がないメディア」というのが著者の持論であり、アニメとの深い関係は、後の『宇宙戦艦ヤマト』まで続いた。

 また本書で注目したいのは、登場するのが作家だけではないことだ。たとえば、『SFマガジン』の鬼編集長といわれた福島正実。当時のSFはプロとアマチュアの境界が曖昧で、福島はプロを熱望していた。著者も厳しいダメ出しを受けることで成長していった。福島以外にも、SFがマイナーだった時代に応援してくれた編集者たちの逸話が披露されている。いずれも陰の功労者だ。

 著者は本書を「遺言」と呼んでいる。少年時代に「ジュブナイル(青少年向け)SF」を愛読していた者としては、SFの歴史を次代に伝えてくれたことに感謝したい。

新潮社 週刊新潮
2019年9月26日秋風月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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