『キッドの運命』
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ありうる日本の未来とは――連作形式で紡いだ短篇6作
[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)
二度の津波と原発事故で国土の半分を失ってしまった近未来の日本を舞台に展開する六篇を収めた短篇集が、中島京子の『キッドの運命』だ。
田舎の動物園の園長である父親、自分とはまったく似ていない姉チサと三人で暮らしている〈ぼく〉。動物の種類も少なく、来園者もいない園を営んでいる父親には実は重大な秘密があり、それを聞かされた〈ぼく〉は――(「ベンジャミン」)。
二度目の事故後スラム化してしまった、かつての東京の一等地に建つタワーマンション。その廃墟に住む老人と対話できるようになったカラスが、彼から頼まれたことは――(「ふたたび自然に戻るとき」)。
旧式のヒューマノイドを生産する違法の工場をやっているじいちゃんと、近くにある研究所の管理人兼警備員をしている〈俺〉。二人の家に押しかけてきた女性テルマには、そこで果たすべきクエストがあって――(表題作「キッドの運命」)。
アメリカで暮らすミラは、夏休みに母方の祖母が暮らす日本の田舎に遊びに行くことに。そこで祖母をはじめとするおばあちゃんたちがしていたこととは――(「種の名前」)。
妊娠出産を人工子宮に頼ることが中心となっている時代、離婚した妻が中絶したことに怒った〈ぼく〉は、“バンク”に預けてある二人の卵子と精子を用いて、あることを試みるのだが――(「赤ちゃん泥棒」)。
最後の日本語話者が亡くなった世界で、その読み書きを学んでいる十六歳の女の子。彼女が〈それがし〉という一人称で書いた記録にある、「ユニット」型社会へ移行した経緯と、超高齢社会に誕生した薬の正体とは――(「チョイス」)。
粗筋紹介を「――」で終わらせているのは、どの物語にも驚くような展開が用意されているから。ある物語に出てくる人物が別の物語に顔をのぞかせたりする連作形式で描かれていく、あるかもしれない未来像。ユーモラスな筆致も魅力の六篇だ。