100点ではなく60点を目指す。すぐやるための「やらないこと」リスト
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
「成果を出している人はみんな行動している」と思われがちですが、『すぐやる人の「やらないこと」リスト』(塚本 亮 著、河出書房新社)の著者は、それは間違いではないかと疑問を呈しています。
実際には、みんなたくさん行動し、たくさん失敗し、そこから学び、その結果として成果をあげているにすぎないということ。
いいかえれば、「行動なくして成功はない」わけです。
著者は、2017年に『「すぐやる人」と「やれない人」の習慣』(明日香出版社)を送り出した人物。
同書がベストセラーとなったため“すぐやる人”と言うイメージが定着したものの、自身についてはいまでも怠け者であるとを認めています。
そのうえで、ちょっとした工夫によって先延ばしを解消し、自分の行動エンジンをオンにしているというのです。
たしかに現実問題として、すべての仕事にエネルギーを注ぐことはなかなかできるものではありません。
なんでもかんでもやっていたとしたら、メリハリがつかなくなって当然なのですから。
だから私は、すぐやることは大事だが、それ以上にやらなくてもいいことを明確にしてバッサリ捨てることが必要だと思うようになりました。
つまり、やらない判断をすることは、やることと同様に重要だということです。(「はじめに」より)
人生のなかには、「やらなきゃ」と思ってはいても、本当はやらなくてもいいものがたくさんあるはず。
なのにそれらをやってしまうから、忙しい割には人生が豊かにならないという考え方です。
第2章「『仕事』でやらない」のなかから、2つのポイントを抜き出してみましょう。
むずかしいものから手をつけない
「難しい仕事は朝に片づけるべきだ」とか、「簡単なものから手をつけたほうがいい」など、仕事の進め方についてはさまざまな意見があります。
そんななか著者は、仕事は「気分」によって使い分けるのがベストだと考えているのだそうです。
朝起きた瞬間からやる気がみなぎっている日、難しい仕事から手をつけてそれをクリアできたとしたら、そのあとに勢いが出るかもしれません。
しかし前日に嫌なことがあったり、疲れが残っていたりするような日は、「動きたくないな」と気分が乗ってこなかったとしても無理はないはず。
そんなときに大変な仕事から片づけようとしたら、「ちっとも先に進まない」ということになりかねないわけです。
気分が乗らないときに自分を無理やり動かそうと気合を入れても、結局はうまく行かないものなのです。「やる気」というのは出そうと思っても出ないのです。
やる気が出ないときこそ小さな行動を起こすことです。やる気はあとからついてきます。
ですからハードルを下げて、できることに取り組む必要があるのです。(47ページより)
大学で講義したり企業で研修する機会が多いという著者には、「試験でよい点をとっている人は自分を乗せることがうまい」という実感があるのだそうです。
たとえば、いい点を取れない人は、総じて出題された順に解答しようとするもの。
そのため難しい問題で答えに詰まったとしても「解かないとダメだ」と自分を追い詰め、結果としてエネルギーを消耗してしまうということです。
でも試験は時間が限られていますから、そのやり方だと場合によっては全問解けずに終わってしまうかもしれません。
一方、いい点を取っている人は、自分の得意な問題や簡単な問題から先に解いていくもの。
そうすれば「できるぞ!」という気持ちが高まり、作業のリズムが生まれ、脳のパフォーマンスがよくなることを知っているからです。
すぐやる人は、いきなり大きな岩を動かそうとはしないと著者。
軽くてすぐに動かせそうな小さい石から動かすことで、自分をうまく乗せているということです。(46ページより)
100点満点を目指さない
すぐやる人は、100点満点を目指さないもの。そもそも、仕事に唯一の正解などないのです。
ところが上司やクライアントからいい評価をもらおうと完璧主義に陥ってしまうと、正解がないものにたいして時間やエネルギーを費やしすぎてしまい、なかなか行動に移せなくなるわけです。
仕事に相手がいる以上、その相手の期待値を見極めることは困難。仕事を依頼してきた上司やクライアントのなかにも、彼らの思い描く理想があるのですから。
そのため自分なりにベストを尽くしたとしても、成果が上司やクライアントの理想と一致するとは限らないということです。
企画書やプレゼン資料などについて考えてみましょう。いきなり100点満点を目指して何度も見なおし、またやりなおして、やっと提出したとします。
ところが、その段階で「これ、全然違うんだけど」となってしまう可能性は大いにあるはず。
しかも、途中経過を報告することなく「一発OK」を狙い、結果的にやりなおしになったとすると、必然的にモチベーションは下がることになるでしょう。
逆にいえば、こまめにフィードバックを得ておくことによって、モチベーションを高めることができるわけです。
つまり大切なのは、早い段階で“たたき台”をつくり、まず方向性が合っているかどうかを上司やクライアントに確認しておくこと。
そして作業を進める際には、 60点くらいを目指すべき。
なぜならそうすると、「自分が考える60点にしてみよう」と思えてラクになり、「とりあえずやってみる」ということになるからです。
実は本書もそうです。 私は出版社の編集者とこの本のテーマや方向性などを打ち合わせしてから執筆を始めました。でも、私が理解したことと編集者がやってほしいことが一緒かどうかはわかりません。
そこで、60点くらいのものをとりあえず書いて、それを確認してもらいながら進めていきました。 編集者は著者と読者の間に立ち、著者が読者に何をどのように伝えたら喜んでいただけるのかを考えるのが仕事です。
著者は専門分野でのスペシャリストですが、書いた内容が専門的だったり内容が難解だったりします。自分にとって当たり前のことだから説明しなくても通じるだろうと思ってしまうからです。
しかしそのまま本にしてしまうと、多くの人の役には立たないかもしれないのです。(51~52ページより)
そのため著者は、「とりあえず60点くらいを目指して投げます。だからどんどんツッコミをお願いします」と編集者に伝え、とにかく書いていくのだそうです。
そのうえで編集者とコミュニケーションを重ね、よりよい原稿にしていくということ。
仕事においてもこうした進め方のほうが、精度もスピードも圧倒的に上がるといいます。
完璧主義を捨て、とりあえずやってみることが大切だという考え方です。(50ページより)
“すぐやる”というのは「手段」にすぎず、決して目的ではないと著者は主張しています。
すぐやることは大切だけれど、それ以上に重要なのは「本当にやらなくてはいけないのか?」という“本質”を明確にすることだと。
だからこそ、そんな考え方を軸として「人生を豊かにするための“やらないこと”」を提案したという本書は、大きく役立ってくれるかもしれません。
Photo: 印南敦史
Source: 河出書房新社