ページを繰る手が止まらなくなる全米五百万部突破のミステリ小説

レビュー

6
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ザリガニの鳴くところ

『ザリガニの鳴くところ』

著者
ディーリア・オーエンズ [著]/友廣 純 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784152099198
発売日
2020/03/05
価格
2,090円(税込)

書籍情報:openBD

ページを繰る手が止まらなくなる全米五百万部突破のミステリ小説

[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

 二〇一八年にアメリカで刊行され、五百万部以上が売れたミステリ小説である。謎解きの面白さもさることながら、主人公の少女が過酷な運命をいかに生き延びるか、手に汗握る思いでページを繰る手が次第に加速し、止まらなくなる。

 一九六九年、ノースカロライナ州の沼地で、村の裕福な青年チェイスの死体が発見される。事故だと考えられたが、周囲の証言などから、チェイスと交際していた過去があり、「湿地の少女」と呼ばれてコミュニティから遠ざけられているカイアが、殺人の容疑者として逮捕される。

 物語は現在である一九六九年と、カイアが母に置き去りにされる一九五二年、二つの時間の流れを行き来する。酒に溺れ、暴力をふるう貧しい夫から逃れて出て行く母を、黙って見送る六歳のカイア。ついで兄姉も去る。父も帰らなくなり、幼いカイアは小屋にひとり残される。

 彼女に手を差し伸べるのは船着き場で燃料店を営む黒人夫婦と、カイアの兄の友だちテイトだけだ。テイトは、学校に行けなかったカイアに読み書きを教える。やがてカイアは、湿地の動植物研究で才能を開花させ、詩を愛するようにもなり、美しい女性に成長するが、テイトもまた彼女から離れていく。孤独なカイアが、裏切られてもなお人を求める気持ちがせつない。

 本作が初めての小説という著者はもともと動物学者で、専門分野でも世界的ベストセラー(『カラハリ アフリカ最後の野生に暮らす』)を出している。カイアをとりまく自然環境、植生や動物の生態、水の流れなど、なるほどと思わせる描写力で、骨身に沁みるカイアの孤独をみごとに浮かび上がらせる。

 カイアは、動物の行動原理を観察し、考察する。それは人間社会の善悪とは重ならない。母はなぜ自分を置き去りにしたのか。極限状態に置かれたとき、ひとは一個の野生動物として行動せざるをえないのか。

新潮社 週刊新潮
2020年4月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加