愛好家たちがそれぞれ語るブックオフのアイデンティティ

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愛好家たちがそれぞれ語るブックオフのアイデンティティ

[レビュアー] 吉田豪(書評家)


『ブックオフ大学ぶらぶら学部』武田砂鉄、山下賢二、島田潤一郎ほか[著](岬書店)

 ブックオフの大型店がオープンする日は早朝から並んだり、地方イベントは「誰かが車を出して近隣のブックオフを一緒に流すこと」を条件に引き受けたりと、ボクも一時はブックオフが好きすぎて頭がおかしくなっていた。それが、いまはめったに行かなくなり、行ってもろくに買い物もしなくなった理由は、ある時期からブックオフが、そのアイデンティティを失ってしまったためだ。

 ブックオフ愛好家が集まって作られた本書には、せどらー(古本屋で高額なはずの本が安値で売られていると、それを買い取り、高値で転売して利益を得る人種)を名乗る人物による、ブックオフが「本は定価の半額、しばらく売れなかったら一〇〇円に値下げ」というアイデンティティを失うまでの顛末が語られている。

 それによると、まず二〇一〇年、ブックオフでのせどりのノウハウを詳しく説明した情報商材がスマッシュヒットになり、「『せどりの情報商材は需要がある』と踏んだ、ある商材屋が、なんとも危険なせどり商材をリリース」したのだという。

 それが、入塾には二〇万円近く払わなければならないが「せどりで月1191万円を稼ぐ!」と豪語する『阿部式せどり塾』。この塾は「クレジットカード会社に詐欺認定され、新聞沙汰」となるが、ここの売り物だったバーコードリーダーを持った塾生や、その仕組みを知った人間がバーコードリーダー片手にブックオフに並ぶ本を全チェック。ネットで高値が付いている本を片っ端から抜き、ブックオフを荒らし回った。

 それに対抗するため、ブックオフは安売りセールを減らし、販売価格も定価の七~八割に値上げして、一〇〇円棚にもなかなか落とさなくなった。こうしてブックオフはつまらなくなり、せどらーは「家電せどり、ドンキせどり、ドラッグストアせどりなど、ブックオフ以外の場」を開拓し、地獄のような転売だらけの世の中になったわけなのである。

新潮社 週刊新潮
2020年7月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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