公衆衛生獣医師を主人公に描く犬猫殺処分の歴史

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

犬と猫

『犬と猫』

著者
小林照幸 [著]
出版社
毎日新聞出版
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784620326498
発売日
2020/09/26
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

公衆衛生獣医師を主人公に描く犬猫殺処分の歴史

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

「あなたは犬派? 猫派?」はよく交わされる会話です。SNSにも彼らの写真や動画はあふれており、飼える情況にない私にも癒しとなっています。

 という内容の本ではありません。某県の犬好きの少年が公衆衛生獣医師を志し、県動物愛護管理センターに就職(公務員)、やがて所長になり現在に至るまで、つまり昭和、平成、令和の殺処分の歴史が描かれます。

 犬猫の殺処分を縦糸とすると、横糸は狂犬病です。日本は清浄国(汚染国との対比)とされるものの、世界では年に6万人の命が失われ、日本人が海外で罹かり帰国して亡くなるケースもごく稀にあることを本書によって初めて知りました。

 1974年度は犬が約115万9千匹、猫が6万3千匹で計約122万1千匹、1984年度は犬が約86万9千匹、猫が24万4千匹の計約111万4千匹が殺処分との統計があります。管理センターは犬猫を殺す存在として動物愛護団体から敵視されますが、飼い主への啓蒙や罰則(罰金等)の強化により、やがて歩調を合わせるようになります。

 殺処分の数は景気や災害によっても左右され、主人公は東日本大震災の現場に入り、様々を見聞します。避難所では犬や猫を嫌う人がいる反面、その癒しの力を再発見し、ペットの「同行避難」を、飼い主の「終生飼養」責任のひとつとして広く論じる起点とするのです。

 家族の一員としての犬や猫、それは2011年度の数字に現れました。殺処分数は犬が約4万4千匹、猫が約13万1千匹の計約17万5千匹で、1974年の統計開始以来、初めて20万匹を切り、努力は実るのです。

 不妊去勢を済ませ、各種ワクチン接種を施した犬猫の県民への譲渡会も順調というところでのコロナ禍です。実は本書は所長のその苦悩から始まるのですが、すでに犬や猫を飼っている人、これから飼おうとしている人必読の一冊だと言えましょう。

新潮社 週刊新潮
2020年11月12日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加