配給、買い付け…映画という仕事とは

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

職業としてのシネマ

『職業としてのシネマ』

著者
髙野 てるみ [著]
出版社
集英社
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784087211665
発売日
2021/05/17
価格
946円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

配給、買い付け…映画という仕事とは

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 今年に入って最も残念なニュースは、東京渋谷にあったミニシアター「アップリンク渋谷」の閉館だった。暗闇で独りの時間を過ごせる、大切な隠れ家だったのに。おそらくミニシアターは今後も次々に倒れ、映画文化はやせ細るだろう。シネコンが残ればだいじょうぶというわけではない。動員数の少ない上映館にこそ、映画の未来は託されているものだからだ。

 映画に関する本といえば、作品や監督をテーマにしたものが定番だが、高野てるみ『職業としてのシネマ』は、映画を仕事にすることについての本だ。著者自身の体験から、映画の配給についてとくに詳しく語っている。見て楽しむだけの立場だとなかなか気づけないことだが、映画には、メジャー作品が世界各国の現地法人を通じてまさしく「配給」されるものと、バイヤーが目利きをして「買い付け」をするものとの二種類がある。入場料はどちらも同じであっても、買い付けの場合には当然、価格交渉をはじめとしたさまざまな手間やリスクが伴う。著者はそのあたりの事情を、映画に関わる仕事をしたいと思う若い世代に向けて、噛んでふくめるように説明している。「映画が好き」と「映画を仕事にする」のあいだにある切ない断絶についても。これは、どの業界も同じですよね。

 一冊をつうじて、「わたしはこういう業界にいるんですよ!」と胸を張り、笑顔を見せる著者の姿勢を感じた。夢を売る仕事をする人のプライドだと思う。

新潮社 週刊新潮
2021年6月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク