『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』
- 著者
- 川内 有緒 [著]
- 出版社
- 集英社インターナショナル
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784797673999
- 発売日
- 2021/09/03
- 価格
- 2,310円(税込)
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「障害ってさあ、社会の関わりの中で 生まれるんだよね」
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
「いまさら見えるようになったら余計大変じゃないかなー」。全盲の美術鑑賞者である白鳥建二さんが、そんなことを言うシーンが本書に出てくる。医療技術の発展で視力回復が可能になったら「見えるようになりたいですか」と聞く著者に、「俺はなりたくないね」と即答して。
首をひねりたくなるだろうか。だけど「見えないのは大変」というのは勝手な思い込みかもしれない。二人の会話はとても自然に感じられたし、白鳥さんの言葉にも「ああ、そうかもなぁ」と素直に頷けた。
『空をゆく巨人』で開高健ノンフィクション賞を受けた作家による新作。内容はタイトルの通り。一緒に美術館を巡りながら見聞きしたこと、考えたことが、気取らない文章で歯切れ良く綴られている。
最初、白鳥さんに何が見えるかを説明しながらアートを鑑賞することで、著者は自身の「目の解像度」が上がることに気づく。新鮮な発見。でも視覚芸術は言葉で伝え切れるものではないし、解釈も人によって違う。求められているのは同じイメージや感想を共有することではない。関係性も助ける・助けられるという一方的なものではなかった。
障害の有無に関係なく、人それぞれに、見えているもの、見えていないもの、わかること、わからないことがある。〈そのすべてをひっくるめて「対話」という旅路を共有すること〉がゴールだったと記す。違いがあるから発見がある。
「障害ってさあ、社会の関わりの中で生まれるんだよね」と白鳥さんは呟く。あるいは「差別や優生思想は自分の中にもある、まずはそこから始めないといけないと俺は思う」とか言ったりもする。
多様化や共生社会という言葉は、安易に口にするとすぐ上滑りしてしまう。本書によって自分の至らなさを痛感させられた。と同時に背中を押されもした。誰もが生きやすい世界を、あきらめたくない。