自分の人生の選び方 『余命一年、男をかう』 吉川トリコ

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余命一年、男をかう

『余命一年、男をかう』

著者
吉川 トリコ [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065238141
発売日
2021/07/16
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

自分の人生の選び方『余命一年、男をかう』

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 リアルな本音が心のツボを押しまくってくる快作、それが吉川(よしかわ)トリコ『余命一年、男をかう』だ。主人公は節約が趣味でせっせと老後の資金を貯めてきた片倉唯(かたくらゆい)、四十歳。事務職として働き、節約とキルト作り以外趣味もなく、友人関係も希薄で恋人もおらず、結婚願望もない。そんな彼女が無料だからと受けた検診で、子宮がんと宣告される。医者から無理やり聞き出した余命は一年。もちろんショックを受けたものの、「もう老後の心配をしなくていい」と安心したのも事実で、手術を勧められるが拒否した唯。そんなタイミングで彼女に声をかけてきたのが、ピンクの髪をしたホスト、瀬名(せな)だ。時はコロナ禍、自身の仕事も実家の飲食店も窮地に立たされている彼に、唯は勢いで大金を出す。タイトルにある通り、「男をかう」のである。

 ビジネスライクな関係を楽に思う唯だが、口調は軽薄でも実は繊細で優しい瀬名と接するうちに、本音をぶつけあったり、感情が揺さぶられることがあったり。そんな日常がコミカルに描かれていく。とにかく、二人の会話が楽しい。

 瀬名と接しているうちに、唯は自分の中の偏見や頑なさに気づいていく。職業差別、人をカテゴライズしてしまう癖、他人に素直になれない性格、等々。後半では瀬名の視点に移り、彼もまた、唯との出会いを通してさまざまな気づきがあったと分かる。それらは時に、読者をもはっとさせる。

 痛快なくらい多くのことを切り捨てて生きてきた唯にも、次第に生に対して執着が芽生えていく唯にも大いに親しみをおぼえ、どちらの人生観も自分の中にあると気づかされた。安易なメロドラマに陥らない展開も心地よい。

光文社 小説宝石
2021年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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