『神欺く皇子』
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現実社会と共通点も 始まったばかりの異世界ファンタジー
[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「派閥」です
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異世界ファンタジーをお好きでない方に、その手の本を薦めるのは大変難しい。天使と魔法が出てくる小説なんて読めないよ、という先入見は根強いのである。四半世紀前に小野不由美『図南の翼』を読まなければ私もその先入見を一生抱えていたかもしれない。ちなみに、小野不由美「十二国記」シリーズ(『図南の翼』はこの中の一編だ)には天使も魔法も出てきません。ファンタジーに関する私の認識自体がおかしかったのだ。しかし慣れてしまえば怖くない。近ごろは、異世界ファンタジーがあまりに多いので、やや食傷気味でもある。しかし中にはまだまだ面白いものもある。
最近の拾いものは、三川みり『神欺く皇子』だ。「龍ノ国幻想1」となっているので、どうやらシリーズの第1弾のようだが、これを読むと続きを読みたくなる。
皇尊の一族に生まれた女たちは神の眷属である龍の声を聞くが、中には龍の声を聞けない者もいて、それは遊子と呼ばれて忌むべきものとされ、十四歳になると秘かに殺されてしまう。遊子として生まれた姉を殺された日織は、その社会の仕組みを変革するために皇尊たらんとする。つまり、これは差別をなくすために皇位をめざす者の物語だ。
皇位をめざす者は他にもいて、それぞれの候補者を推す者もいるから派閥が作られる。こういう構図は現実社会でもファンタジーでも変わらない。まだ始まったばかりのシリーズなので、今から読んでおきたい。