現実社会と共通点も 始まったばかりの異世界ファンタジー

レビュー

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神欺く皇子

『神欺く皇子』

著者
三川 みり [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101802183
発売日
2021/08/30
価格
781円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

現実社会と共通点も 始まったばかりの異世界ファンタジー

[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)

 書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

 今回のテーマは「派閥」です

 ***

 異世界ファンタジーをお好きでない方に、その手の本を薦めるのは大変難しい。天使と魔法が出てくる小説なんて読めないよ、という先入見は根強いのである。四半世紀前に小野不由美『図南の翼』を読まなければ私もその先入見を一生抱えていたかもしれない。ちなみに、小野不由美「十二国記」シリーズ(『図南の翼』はこの中の一編だ)には天使も魔法も出てきません。ファンタジーに関する私の認識自体がおかしかったのだ。しかし慣れてしまえば怖くない。近ごろは、異世界ファンタジーがあまりに多いので、やや食傷気味でもある。しかし中にはまだまだ面白いものもある。

 最近の拾いものは、三川みり『神欺く皇子』だ。「龍ノ国幻想1」となっているので、どうやらシリーズの第1弾のようだが、これを読むと続きを読みたくなる。

 皇尊の一族に生まれた女たちは神の眷属である龍の声を聞くが、中には龍の声を聞けない者もいて、それは遊子と呼ばれて忌むべきものとされ、十四歳になると秘かに殺されてしまう。遊子として生まれた姉を殺された日織は、その社会の仕組みを変革するために皇尊たらんとする。つまり、これは差別をなくすために皇位をめざす者の物語だ。

 皇位をめざす者は他にもいて、それぞれの候補者を推す者もいるから派閥が作られる。こういう構図は現実社会でもファンタジーでも変わらない。まだ始まったばかりのシリーズなので、今から読んでおきたい。

新潮社 週刊新潮
2021年10月28日菊見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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