ミステリ書評家・村上貴史さんが選ぶ、気鋭の若手ミステリ作家3作品

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[本の森 ホラー・ミステリ]『救国ゲーム』結城真一郎/『倒産続きの彼女』新川帆立/『老虎残夢』桃野雑派

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 日本推理作家協会賞を短編部門で獲得したばかりの結城真一郎。彼の第三長篇『救国ゲーム』(新潮社)は、緻密にして華麗な謎解きを堪能できる本格ミステリだ。

 公的資金に一切頼らずに、限界集落を復活させたヒーロー神楽零士が殺された。舞台となったのは彼が復活させた岡山県北部の奥霜里近辺。切断された首はドローンで運ばれ、胴体は自動運転車のなかで発見された後に、車ごと燃やされた……。

 首の切断の機会や、ドローンと自動運転車の運行スケジュールなど、いくつものパラメーターで構成されたアリバイの謎に、奥霜里への移住者と、現地に張り付いている週刊誌記者、そしてリモート参加の内閣官房の官僚が挑む。彼等の“情報収集→推理→検証”のサイクルが読み手の脳を刺激し続けて最高。論理的な考察だけでなく、現地で足を活かして進める情報収集の様子も愉しい。もちろん真相の意外性も抜群。犯人の大胆にして周到な計画に圧倒される。そのうえで本書は、現代日本の抱える大きな問題を俎上に載せる。本書において犯人は、八千万人の国民を人質に取るかたちで――こちらの脅迫劇も計算が行き届いたサスペンス小説として愉しめる――この問題を直視するよう要求したが、その要求は、そのまま我々読者にも突き刺さってくるのである。目を背け続けていていいのか。著者の問題提起が深く胸に響く必読書だ。

『このミステリーがすごい!』大賞を受賞したデビュー作が大ヒットした新川帆立。第二長篇『倒産続きの彼女』(宝島社)は、前作のヒロインが脇役に回り、美馬玉子という“ぶりっ子弁護士”を新たなヒロインに据えたミステリである。玉子が挑むのは、連続殺人事件ならぬ、連続殺「法人」事件だ。ある女性が就職する会社が次々と倒産していく。彼女は経理担当の“小者”で会社を潰す権力などない。一体なにが起きているのか……。謎の設定と人物造形が魅力的であり、心地良く頁をめくり続けられる。そしてその果てに、意外な真相とともに、現代日本が抱える問題が提示されるのである。結城作品同様、エンターテインメントと問題提起が極めて自然体で両立した作品として愉しめる。ちなみに結城真一郎も新川帆立も一九九一年生まれの東大法学部卒。二人が同時期にこうした作品を発表したのは偶然かもしれないが、読み手としては嬉しい出来事で大歓迎。

 最後は本年の江戸川乱歩賞から。桃野雑派『老虎残夢』(講談社)である(伏尾美紀『北緯43度のコールドケース』と同時受賞)。南宋時代の中国を舞台に、武侠小説と本格ミステリを両立させた一冊。個性が際立つキャラクターを操り、彼等の特殊能力を活かしつつ、師が弟子に奥義を授ける直前に発生した密室状況での変死事件の謎解きを鮮やかに描ききった。こちらは徹頭徹尾エンターテインメント。前回の乱歩賞では、まったく異なる題材(米国のビンテージジーンズ市場における争奪戦)で最終候補となっており、力量は相当にありそう。今後も要注目である。

新潮社 小説新潮
2021年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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