『らんたん』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
戦争や弾圧下でも紡がれた「シスターフッド」の絆
[レビュアー] 鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)
明治大正生まれの女性教育者、運動家、作家が綺羅星のごとく並ぶ圧巻の歴史絵巻だ。津田梅子、事業家の広岡浅子、女性翻訳家若松賤子、『赤毛のアン』を初訳した村岡花子、花子の腹心の友柳原白蓮、平塚らいてう、フェミニストの山川菊栄……。
主役は、柚木の母校恵泉女学園を創立した河井道と、その右腕として彼女を支え続けた一色ゆりだ。道は大戦後、昭和天皇の免訴にも力を貸したと言われている。二人は固い「シスターフッド」の絆で結ばれ、ゆりは求婚されると、道と三人で暮らすことを条件として突きつける。相手の男性は仰天するが、英国への留学生活で考えが柔軟になっており、この条件を飲んだ。
「草原に放たれたような開放感」があったというアメリカの大学生活で河井道が学んだのは、キリスト教の他愛主義による「シェア」の精神や、「オナーコード」と呼ばれる名誉ある自律的行動だ。さらには、女性が物怖じすることなく男子学生と議論しあう平等社会のあり方と、女性の自立。彼女は帰国後、これらのアイデアを長年温め、昭和四年、一色夫妻の私宅を使って「恵泉女学園」を開校する。
道の文学へのまなざしも読みどころである。彼女は男性作家の都合で女性の登場人物が犠牲になることが許せず、実在の女性をモデルに利用することにも手厳しい。菊池寛、芥川龍之介といった大物作家がばっさり斬られ、『不如帰』を書いた徳冨蘆花などは、「女を悪者にし、女を殺さなきゃ、読者の心も動かせないなんて、三文小説家だと言っているのです!!」と一刀両断に。道に褒められたい有島武郎も、所詮、あなたがた男性が評価する「陰影に富んだ」「美しい薄闇」などというのは自分の不都合を隠すためにあるのだろうと看破されてしまう。
題名の「らんたん」はランターンのこと。戦争や弾圧下でも教育と平和の灯を消さずに継承しようと尽力した女性たちの祈りの表象である。