『フェルメールとそのライバルたち 絵画市場と画家の戦略』小林賴子著

レビュー

3
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フェルメールとそのライバルたち 絵画市場と画家の戦略

『フェルメールとそのライバルたち 絵画市場と画家の戦略』

著者
小林 頼子 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
芸術・生活/絵画・彫刻
ISBN
9784044006785
発売日
2021/11/17
価格
2,860円(税込)

書籍情報:openBD

『フェルメールとそのライバルたち 絵画市場と画家の戦略』小林賴子著

[レビュアー] 黒沢綾子

■名画は競争から生まれた

オランダの風俗画家、ヨハネス・フェルメール(1632~75年)は現存作わずかに三十数点と、その希少性も相まって、作品が来日するたびに話題を呼んできた。

日本のフェルメール研究の第一人者である著者は、古今の研究と自身の知見を踏まえ、17世紀オランダの絵画市場の変遷、および画家たちの戦略を詳細に分析。孤高の存在と見なされがちなフェルメールの人生と画業を、同時代の風俗画家と市場の中に改めて位置づけていく。先達にならい、ライバルとしのぎを削り、流行にも敏感であろうとしたフェルメールが本書によっていきいきと浮かび上がる。

他国に先駆けて市民社会を形成した同国では、絵画は教会や王侯貴族の独占物でなく、市民に広く開かれていた。黄金時代と呼ばれた繁栄の下、アート・マーケットが生まれ、画家も急増。本書によれば、17世紀を通じてオランダでは約2000人の画家が、500万点余りの絵画を制作したという。しかし繁栄は長く続かず、フェルメールの晩年には戦争と不況で美術市場が冷え込み、生き残りをかけた画家の競争は激化した。

43歳の若さで没したフェルメールの〝最盛期〟とされるのは、「天秤(てんびん)を持つ女」「手紙を書く女」などが描かれた1660年代。柔らかくモチーフを包む光は晩年、フラッシュをたいたような強い光に変わる。緻密でニュアンスに富んだ描写も、「鋭角的でメリハリの利いた」表現へ変化。こうした晩年のスタイル転換の謎も、画家が市場と向き合おうとした過程にあるものと考えると腑(ふ)に落ちる。

手紙と女性を結び付けた主題など、当時の画家は顧客の嗜好(しこう)もふまえて互いによく似たテーマや構図で描き、フェルメールも例外ではなかった。一方、他者と差別化する個性も必要となる。「静謐(せいひつ)さ」といったフェルメール作品の魅力も、競争の中で生まれたのかもしれない。

修復でキューピッドの画中画が出現し話題沸騰のフェルメール「窓辺で手紙を読む女」を軸に、独ドレスデン国立古典絵画館所蔵の17世紀オランダ絵画が10日から、東京都美術館など国内を巡回予定だ。本書を参考に、フェルメールとライバルたちの作品を見比べてみたい。(KADOKAWA・2860円)

評・黒沢綾子(文化部)

産経新聞
2022年2月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加