<東北の本棚>「知」の蓄え 次代へ伝承

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司書になった本の虫

『司書になった本の虫』

著者
早坂信子 [著]
出版社
郵研社
ISBN
9784907126469
発売日
2021/11/09
価格
2,420円(税込)

<東北の本棚>「知」の蓄え 次代へ伝承

[レビュアー] 河北新報

 図書館の進化は著しい。目録カードを一枚ずつ探していたのが、今ではコンピューターですぐにたどり着ける。本の裏にあった返却日のスタンプ欄が懐かしい。人気度を測ったものだ。

 1946年生まれの著者は大学卒業後の69年、地元仙台市にある宮城県図書館の司書となり、定年まで37年間勤めた。図書館は68年、宮城野区榴ケ岡に移転したばかり。真新しい職場でスタートを切ったのだろう。現在の県図書館が泉区紫山にオープンしたのは98年のことだ。

 本書では、昨年創立140周年を迎えた県図書館の源流の一つ、仙台市の青柳文庫を探る。名は蔵書を献上した江戸の富豪青柳文蔵にちなむが、堀田正敦という人物が大きな役割を果たしたと著者は推し量る。仙台藩6代藩主伊達宗村の八男で、江戸幕府若年寄として寛政の改革を支えた。青柳の思いに堀田が応え、仙台藩12代藩主伊達斉邦(なりくに)が経営体制を築いたとみる。

 著者の素顔が伝わるのが「レファレンスは毎日が謎解き」と題した5編のコラム。利用者の本や資料探しを手伝うレファレンスは、いわば図書館の道案内。問い合わせを受けた本を探しあぐねた揚げ句、実は未邦訳という例も。原書を読んだ著名人の感想や、海外の話題本として取り上げた新聞などが背景にあるようだ。

 図書館のそばに住み、それでも本を買ってしまうと明かす著者。自らを「本の虫」と称する。「公共図書館の専門的職員である司書は、過去の著作者から受け取った思索や発見を、預かって組織化し、目録を公開してアクセスに応え、未来の読者に無事届くよう大切に守る」。天職に巡り合えた喜び、そして使命感にあふれる一節だ。

 図書館がどんなに機械化されようとも、本への惜しみない愛情があってこそ、知の蓄えは次代に伝承されていくのだろう。(志)
   ◇
 郵研社03(3584)0878=2420円。

河北新報
2022年3月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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