ゲーム作家・山本貴光さん推薦 映画や漫画、ゲームにまで息づく「神話のエッセンス」を紹介する一冊

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すごい神話

『すごい神話』

著者
沖田 瑞穂 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/宗教
ISBN
9784106038785
発売日
2022/03/24
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

現代に転生する世界の神話

[レビュアー] 山本貴光(文筆家・ゲーム作家)

神話学研究所を主宰する気鋭の神話学者・沖田瑞穂による『すごい神話―現代人のための神話学53講―』が刊行。世界に伝わる多様な神話から、現代の映画や漫画、ゲームにまで息づく「神話のエッセンス」を紹介した本作の読みどころを文筆家でゲーム作家の山本貴光さんが語る。

山本貴光・評「現代に転生する世界の神話」

 専門学校や大学でゲームのつくり方を教えていたことがある。その際、学生のみなさんから毎年のように訊かれるお決まりの質問があった。なかでも多かったのが、「神話について知るのによい本はありますか」だった。

 そんなときは、青土社から出ていた『ロシアの神話』『エジプト神話』『インド神話』『日本の神話』『アメリカ・インディアン神話』といった世界の神話を案内する本や、さらに知りたいという人には神話学に関する本を紹介していた。当時この本があったら、真っ先に紹介したにちがいない。

 というのも、本書はゲームや漫画をはじめとして、アニメや小説や映画など、私たちにお馴染みの創作物と世界の神話とを重ね合わせながら、そのおもしろさや不思議さに読者を案内してくれる本なのだ。著者はインド神話を専門とする神話学研究者の沖田瑞穂さん。神話に興味のある読者なら、古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』に関する本や『世界の神話』(岩波ジュニア新書)などを読んだことがあるかもしれない。

 本書『すごい神話 現代人のための神話学53講』は、「神話で世界を旅する」と題された章から出発して、五十三のトピックを通じて世界各地の神話に触れることができる。その一部をご紹介すれば、宇宙や世界の創世、人間の生死や運命、名前や音や数の魔力、世界の神話に見られる「三種の神器」、見ることを禁じる女神たち、仮想現実としての世界といった具合である。どこから読んでも面白い。

 それぞれのトピックは五ページほどの分量で、もっぱら三つの要素からできている。(一)私たちに身近な現代の話題、(二)古代の神話の具体例、(三)神話学のものの見方だ。著者も言うように、SNSで好きなものについておしゃべりするように書かれていて、気軽に読めること請け合いである。また、神話の一部を引用紹介しており、本書全体を神話名場面集として楽しむこともできる。

 例えば、巻頭の「人間はなぜ死ぬようになったのか――インドネシアの「バナナ型」神話」と題されたトピックは、吾峠呼世晴の大ヒット漫画で劇場版アニメも大きな話題を呼んだ『鬼滅の刃』(集英社)の話から始まる。著者は、この漫画に描かれた鬼と人間の争いの横に、インドネシア神話を並べてみせる。バナナと石が「人間はどのようであるべきか」について激しく争う話だ。

 人間は石のように硬く、不死であるべきだと主張する石と、人間は個体としては死んでも、子を生んで種として存続するバナナのようであるべきだと主張するバナナの争いは、途中を省くとバナナの勝利に終わる。それで人間は不死ではなく、死ぬ定めになったというわけである。これは「死の起源神話」といって、人間がなぜ死ぬのかを説明するものだ。また、世界には同じような話があって、「バナナ型」と分類される。

 それにしてもどうしてこの漫画と神話を並べたのか。これは著者の受け売りだが、この二つの物語は構造がとてもよく似ているのだ。『鬼滅の刃』に登場する不死で家族を持たない鬼たちは石に、死ぬ定めで家族をもつ人間たちはバナナに重ねてみることができる。著者は、現代の創作者たちに敬意を払いながら、「ほとんどの物語の原型は神話に出尽くしていると言っても過言ではない」と指摘している。

 こんなふうに物語同士の構造を比較したり、「死の起源神話」や「バナナ型」といった分類を施したりするのは、外ならぬ神話学の方法だった。神話学では、個々の神話を検討するのに加えて、世界各地に伝わる神話を対象として、そこに共通するパターンや違いを検討する。本書はパッと開いて目に入ったページをつまみ読みしても楽しめるように書かれているが、そのつもりで見ていくと、あちこちにそうしたつながりや共通する要素が目に入るはず。

 この本を読みながら、私はいつしかゲームと神話の関係について考えていた。本書で取り上げられている『パズル&ドラゴンズ』や『FGO(Fate/Grand Order)』といった人気のゲームにも神話のモチーフがふんだんに使われている。思えば、人間同士で遊ぶゲームの時代から神話は重要な発想源になっていたし、コンピュータゲームにも数え上げればきりがないほど神話の要素が用いられている。

 神話はこの世界の成り立ちや人間の運命を説明する物語だ。見方を変えれば神話とは「世界設定」、あるいはその設定から生じる出来事の事例集のようなものである。他方のゲームは、どんなに小さなものでも一つの世界のようなものだ。そんなゲームをつくり出すのはいわば創世の仕事であり、神話の世界をつくることにもどこか似ている。

 その際、クリエイターは、物語の原型である神話をおおいに頼りにする。そうして人の一生より遥かに長い時間、この世界に存在してきた神話は、ゲームという新たなかたちで甦り、未来へと継承されてゆくわけである。神話風にいえば神話の輪廻転生とでもいおうか。

 著者の案内で世界の神話を楽しんでいるうちに、気づけば神話のようなものの見方をしていたのだった。

新潮社 波
2022年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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