「必ず大敵に抗う」――誇り高き伊賀国人が、織田家との戦いで辿り着いた真実とは

レビュー

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焔ノ地

『焔ノ地』

著者
結城充考 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914530
発売日
2022/03/24
価格
2,035円(税込)

書籍情報:openBD

[本の森 歴史・時代]『焔ノ地 天正伊賀之乱』結城充考

[レビュアー] 田口幹人(書店員)

 戦国時代には間者、江戸時代には隠密などと呼ばれた忍びの者たち。厳しい掟のもとで秘密裏に組織され、忍術を使い社会の裏で活躍していたとされる忍者のイメージを覆させる作品に出合った。

 結城充考『焔ノ地 天正伊賀之乱』(光文社)は、天正六(一五七八)~七(一五七九)年と天正九(一五八一)年の二度に渡って起こった織田軍と伊賀の戦いである伊賀之乱を、伊賀の若武者・新弥兵衛(アラタ)の視点で描いた物語だ。

 天下統一を狙う織田信長の次男・信意は伊勢の有力者である北畠具房の養子となり、伊賀侵攻の野心を北畠姓と共に引き継ぎ動き出す。そして伊賀攻略の拠点とすべく、具教が築城途中で放棄した丸山城の再普請に着手した。伊賀国人が何もせず築城を静観しているはずもなく、反抗のために襲撃し、信意軍を打ち負かし伊賀の地から追い返した。信意の独断で戦いを始め、敗北したことを知った信長は激怒し、それが伊賀に対する敵意へと変わり、この勝利が伊賀の運命を大きく変えてゆく。

 本書は、天正六~七年の戦いから二年後、信意が再び兵を率いて伊賀に来襲し、六ヶ所から約四万四千もの兵を送り攻め込み、わずか二週間足らずで伊賀国全土を焦土とした伊賀之乱の後半の戦いが中心に描かれている。

 甲賀忍者とも連携し、丹羽長秀や蒲生氏郷など、織田家の名立たる武将が参戦した戦いで、伊賀国人の必死の反抗も空しく、民衆が治めていた伊賀の歴史に終止符が打たれた。その事実が持つ意味に、伊賀之乱に対する著者の解釈を垣間見ることができる。

 伊賀国人は、伊賀国内だけでなく近隣の国々の土豪・地侍などと地縁関係によって結ばれ、領主不在の中、自らの所領を守るため連合を組み、有力国人から構成した評定衆により意思決定が行われており、民衆が自治の中心を成していた。

「必ず大敵に抗う」という伊賀国人の気風は、巨大な力に対する小国の意地であり、伊賀の地を守ってきた誇りの象徴として、本書では何度もこの言葉が使われている。二度の伊賀之乱の渦中において、裏切りや謀略に巻き込まれ、疑心暗鬼になりながらも、伊賀国人としての意地を貫こうとするアラタが敗戦間近に辿り着いた真実もまた、誇りある伊賀国人の選択だったのだろう。

 本書の合戦シーンは、忍びの者たちの忍術を駆使した戦いではなく、織田家の圧倒的な力に真っ向から立ち向かう地侍の魂を感じることができる臨場感に溢れたものだった。一方で、伊賀と甲賀という二つの忍者集団の駆け引きに、若き忍びの者たちの恋情が絡まり、これでもかという程読みどころが詰め込まれた作品だった。

新潮社 小説新潮
2022年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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