『ホモ・エコノミクス』
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経済学へのストレートな挑戦状
[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)
自分の利益を最優先して行動する人間像(ホモ・エコノミクス)を前提にしている経済学は、頻繁に批判にさらされてきた。人間の多様性を無視し、社会のあり方を利己的な傾向に誘導する悪しきものだ、というのがその種の批判の定番である。さらに経済学は数学を利用して現実をモデル化する。この点も「数学だと人間の複雑な行動を描写できない、むしろ単純化されて危険だ」と言われてきた。
ホモ・エコノミクス批判は、また世論に受けがいい。実際に私もホモ・エコノミクス批判の訳書を出したことがあるが、主要新聞すべてに書評が出た。同じようにマスコミの注目度の高い重田園江『ホモ・エコノミクス』は、ありふれたこの種の経済学批判に何か新たな成果を加えただろうか。
率直にいって挑戦状を受けた気がする本だ。経済学を古典力学的世界像でとらえ、ワルラスやジェヴォンズについての解説は鋭い。
だが、真空状態でりんごが落ちる仮想的な世界像よりも、海洋の潮流を分析する姿勢に現実の経済学は似ている(サットン『経済の法則とは何か』)。人間という「大洋」の複雑さを謙虚に知ろうとしているのだ。
経済学のエントロピー増大法則的な解釈も議論を招くだろう。経済学は資源を食い散らかすことを前提にしているかもしれない。他方で、人間の知識が前進していく可能性をも教えてくれる(フィトゥシ、ローラン『繁栄の呪縛を超えて』)。
本書のストレートな挑戦を経済学は受けるべきだ。