「三冠小説家」が「文壇」からパージされつつある

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シモーヌ(Les Simones)VOL.6

『シモーヌ(Les Simones)VOL.6』

著者
シモーヌ編集部 [編集]
出版社
現代書館
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784768491065
発売日
2022/06/08
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

「三冠小説家」が「文壇」からパージされつつある

[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)

 芥川龍之介賞、三島由紀夫賞、野間文芸新人賞をすべて受賞した「三冠小説家」である笙野頼子が「文壇」からパージされつつある。

 去る5月、笙野は『発禁小説集』を上梓した。版元は、長野の小さな出版社・鳥影社。収録作の初出は大半が講談社の文芸誌『群像』だったが、同社に刊行できないと拒否されたのである。それで「発禁」。作中にある「ご主張」が不可の理由として告げられた。

 どんな主張か。性自認至上主義に社会が侵食されることへの批判と恐怖である。性別が自己申告で通れば脅かされるのは生物学的女性だと笙野は警告する。「女が消される」「女消運動」とまで強い表現も用いる。それは性自認にちょっとでも懸念や疑問を挟むと、「ターフ!」(TERF=トランス排除的ラディカルフェミニスト)と差別者認定され吊し上げられる風潮への抵抗である。この原稿を書いたことで私も差別者と呼ばれるであろう。

 片やトランス擁護者は「TRA(トランス権利活動家)」と揶揄される。SNSでのTRAとターフの闘争には止め処がない。

 笙野をトランス差別者と糾弾しているのは、作家の李琴峰、文筆家の水上文、トランス女性詩人榎本櫻湖といった面々で、水上は『文藝』春季号、李はフェミニズム誌『シモーヌ』6号、榎本はウェブの「note」に批判文を発表している。

 水上の批判についてはこの欄で好意的に取り上げた。面倒事を避けたがる文芸誌が正面切った批判を載せたこと、および新人批評家が「三冠作家」という権威に臆せずもの申したことを評価したのだが、こう笙野排除の趨勢が強まっては手放しで褒めているわけにもいくまい。文芸誌の最高権力者は編集長であり、三冠作家だろうが一存で干せる。『文藝』編集長の寵愛を受ける水上は今、ある意味では笙野より強者である。

 李琴峰は『シモーヌ』に「語り合い、分かち合い、理解できなくとも共有すること、それがフェミニズムの本来の姿だ」と書いた。とするなら『文藝』は笙野を誌上に呼び、水上らとの議論の場を設けるべきではないか。かつて笙野頼子の特集を組んだ雑誌なんだし。

新潮社 週刊新潮
2022年7月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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