他人をイラつかせる天才……『店長がバカすぎて』の続編の読みどころ

レビュー

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新! 店長がバカすぎて

『新! 店長がバカすぎて』

著者
早見 和真 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758414289
発売日
2022/08/31
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

苦戦を続ける書店業界への応援小説! 書店員さんたちから圧倒的な支持を受けた、あの続編小説が登場

[レビュアー] 吉田伸子(書評家)

 山本周五郎賞や日本推理作家協会賞を受賞、2021年には初のノンフィクション『あの夏の正解』を発表した早見和真さんによる小説『新! 店長がバカすぎて』が刊行。バカすぎる店長とのやり取りにイライラさせられるが、書店員の女性主人公の日々通して、小説と書店の未来、仕事の意味、生きる希望を描いた本作の読みどころを、書評家の吉田伸子さんが紹介する。

 ***

「武蔵野書店」吉祥寺本店に勤める書店員・谷原京子と・バカすぎる店長・のバトルな日々(?)を描いた前作『店長がバカすぎて』から早三年、シリーズ第二作『新! 店長がバカすぎて』の登場だ。

 ちなみに、前作の文庫版には、特別付録として、作者の早見さんと角川春樹氏との対談に加え、ボーナストラック「店長がバカなまま帰ってきた!(仮)――『新! 店長がバカすぎて』につながる前日譚」が収録されているので、文庫版を読まれた方には、前作の最後で宮崎の山奥の店に「店長代理補佐」として飛ばされた、あの山本店長が、吉祥寺本店に戻って来たことは明かされている(この特別付録、大変面白いので、前作を単行本で読まれて、文庫版を未読の方はぜひ!)

 本書は、三年ぶりに本店に復活した山本新店長の朝礼から幕を開ける。例のごとくうざったい挨拶に、あくびを噛み殺していた京子に、早速にかましてくる店長。いわく「いつまでも契約社員気分でいられたら困りますよ。あなたを正社員にするために私がどれだけ陰日向に暗躍したことか、まさかお忘れのわけではないですよね? お願いですので、私の顔にだけは泥を塗らないでください」

 この、ツッコミどころ満載の物言いこそ、まさしく店長の真骨頂。なんというか、他人をイラつかせる天才なのだ。他人の怒りのツボを踏みまくることにかけては、彼の右に出る者はいない。おまけに、めっちゃ我が道を行くというか、天上天下唯我独尊。お釈迦様か、お前はっ!

 にもかかわらずというか、だからこそというか、店長がごくごくごくたまに見せる気配りや心遣いは、ことごとく明後日の方向。時には明後日を飛び越して、明明後日までになることも。ただ、それが彼の素なのか、彼がわざと作り上げているキャラなのか、微妙に判断しがたいところがあって、そこが早見さんの筆加減の絶妙さだ。

 前作同様、本書のベースはお仕事小説というか、書店員小説なのだけど、加えて本書では、京子の成長小説としての側面が立ち上がって来ている。例えば、第二話「アルバイトがバカすぎて」では、二十五歳の新人アルバイト・山本多佳恵にまつわるエピソードのくだり。

 彼女が大学を出て二年くらい実家に籠っていたことは知っていた京子だったが、ある日、娘を心配して店にやって来た多佳恵の母親から、彼女が小五から高三まで、ずっと引きこもりのような状態だったことを聞かされる。小さい頃にはイジメのようなこともあった多佳恵にとって、本だけが逃げ場だった、ということも。

 その時の母親の多佳恵評、「自分以外の誰かのように振る舞うのは、あの子なりの自己防衛策」に、京子は思い至る。「大なり小なり、みんな自分を守るために何かしらのキャラクターを演じているのではないか」と。「ひょっとしたら周囲が見ている自分は、私が見せたいと願っている自分の姿でしかなくて、それがなんとか成功しているからギリギリのところで周囲と折り合いをつけられているだけなのかもしれない」

京子がこんなふうに自省するのは、前作では二十代だった彼女が、本書では三十二歳になっている、ということも大きい。前作ではアルバイト女子が、大手出版社の社員となったことに、モヤッとしたものを覚えた京子。今回は、「十五歳上のドクター」とデキ婚の寿退社をすることになった五つ年下の契約社員・秋山さんに、いわく言い難くモヤッとする。仕事と生きがいと結婚と。自分の活路はどこにあるのか、京子は揺れる。そして、この時の揺れが、「武蔵野書店」の社長ジュニアとの顛末に繋がっていく。このあたりの物語の流れもまた巧い。

 モヤる心を持て余し、かつての先輩書店員・小柳さんに京子が相談するシーンがいい。三十五歳までに「武蔵野書店」の店長になっている未来と、三十五歳までに結婚して仕事を辞めている未来、どっちを引き上げるべきなのか、という京子の問いに、小柳さんはこう答える。

「私はそのどっちもの手を引き上げる方法はあると思っているし、両方を放す選択肢だってあると思っている。肝心なのは、何をどう選択したところで、あんたのその後の人生は続いていくっていうことだよ」

 小柳さん、深いっ! そして、正解っ! そう、人生は続いていくのだ。この先も、ずっと。思わず、小柳さんにかけ寄ってハグしたくなりました、私。

 でもそれは、私が京子の年齢を通り過ぎているから思うことで、京子のように、三十代前半独身女子があれこれ思い悩んでしまうのは、もう本当しょうがない。どっちへ進めばいいのか、どっちを選べばいいのか。トライアンドエラーを何度も繰り返せるほどには若くない。エラーだった時の痛みを受け入れる体力に自信が持てなくなってきている。そんな彼女たちに、小柳さんのこの言葉を届けたいな、と思う。

 本書には、前作に続くミステリ的な仕掛けがあって(しかも、その仕掛け、増えてますからね!)、そちらもまた読ませる。何より、店長の「正体」という最大のミステリはまだ解き明かされていない。今から次作(きっとあるはず!)が楽しみだ。

協力:角川春樹事務所

Book Bang編集部
2022年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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