『社会をつくった経済学者たち』
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高水準の福祉と着実な経済成長は経済学者の政治関与にあった!
[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)
世界トップ水準の暮らしやすさ、福祉国家、女性の社会進出率の高さ、ノーベル賞などスウェーデンに対するイメージは評価が高いものが多い。最近では、中立国家としてのスタンスを変更した。ロシアに抗してNATOへの加盟を申請したことが話題になった。人口1千万ちょっとの国だが、その経済・社会の枠組みは、「スウェーデン・モデル」として知られている。スウェーデン・モデルは、高水準の福祉の提供と同時に、着実な経済成長を実現した。
本書は、このスウェーデン・モデルの形成と確立にどのように経済学者たちが関与したのかを、通史的に解説したものだ。スウェーデン経済学の歴史を扱った日本最初の本となる。世界的にもまれで、その学術的な意義は高い。ただし専門知識は無用で、著者の文章のうまさもあり、すいすい読める。
著者が展開する視野も広い。コロナ禍やウクライナ戦争に直面している世界での、国境をまたいだ「福祉世界」の確立を目指すものだ。一国の利害をどのように超克するか、まさに現代の重要課題だろう。またドラマの豊富なスウェーデンの近現代史としても読めるお得感がある。
スウェーデン国家の先見性は、経済学者たちの数百年に及ぶ具体的な貢献に基づく。経済学者たちは政治や国際機関への関与を恐れず、むしろそこで率先して社会を導く役割を果たしてきた。世界最初の中央銀行の誕生、大恐慌期における積極的な財政・金融政策の構築、福祉国家や中立国家としての体制確立など、すべての局面で、スウェーデンの経済学者たちは積極的に国民に働きかけている。強靭で実践的な経済学者たちが多い。ノーベル賞に経済学賞が入っている理由がわかる。
対して日本は経済学者の評価は低い。官僚や政治家に忖度する学者ばかりを生み出した結果だ。「福祉世界」ではなく、ムラ社会の住人なのだ。実に情けない。