『清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチってみた』
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バカバカしさと超絶技巧文体の融合 あまりにも壮絶なくだらなさに瞠目
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
いかにもWEB小説(またはライトノベル)っぽいタイトルだが、中身はそれこそガチガチに気合いの入った本格派。思い切りくだらないことに全精力を注ぎ込む非モテ童貞男子の青春をおそろしく高度な文章力で活写する、超絶技巧の爆笑小説集なのである。バカバカしさと技術の融合という点では、ある意味、文学版『チェンソーマン』とも言える。
表題作の主人公は超難関校でゆうゆう成績トップを独走する男子高校生。パンチラに気をとられてデコトラにはねられた彼は、気がつくと清朝時代の中国の片田舎に暮らす若者に転生。超しょうもない目的のため、神にも等しいとされる科挙の三元(3試験の首席合格者)を目指すことになる。受験スポ根ものとしても痛快だが、なんといっても中毒性の高い文体がすばらしい。
「花火大会撲滅作戦」では、男友だちと花火大会に出かけた男子中学生がカップルのキスを見て怒り狂う。
〈こんなものを考えた奴は正気の沙汰じゃないと思った。お金でも地位でも測れない部分の人間の格差までも可視化してしまう狂気の舞台装置、それが花火大会なのだ。こんな最悪なもん考えたやつ、マジで出てこいや。ドタマにロケット花火突き刺したるわ!〉
思わず声に出して読みたくなる名調子。ほかにも、そのままコント化して「キングオブコント」か「M-1グランプリ」の決勝で見たいと思うような会話やシチュエーションがてんこ盛り。巻末の「東大A判定記念パーティ」では、その壮絶なくだらなさが思いがけない高みにまでエスカレートして読者の感動を誘う。
著者の佐川恭一は、前著『シン・サークルクラッシャー麻紀』がロンブー田村淳のラジオ番組で古谷経衡に紹介されたのをきっかけに大々的にバズって注目を集める俊英。小説すばる掲載の7編に2編を加えて集英社から出た本書は、さしずめメジャーデビューアルバムか。注目。