『AI 2041 人工知能が変える20年後の未来』
- 著者
- カイフー・リー(李 開復) [著]/チェン・チウファン(陳 楸帆) [著]/中原 尚哉 [訳]
- 出版社
- 文藝春秋
- ジャンル
- 文学/外国文学、その他
- ISBN
- 9784163916422
- 発売日
- 2022/12/08
- 価格
- 2,970円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『バイオスフィア不動産』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
[本の森 仕事・人生]『AI 2041 人工知能が変える20年後の未来』チェン・チウファン・カイフー・リー/『バイオスフィア不動産』周藤蓮
[レビュアー] 吉田大助(ライター)
SFジャンルの王道と言えば、未来予測だ。『AI 2041 人工知能が変える20年後の未来』(文藝春秋)は、AI技術の進化によって実現し得る近未来像及び人間ドラマを、元Googleの技術者であるSF作家チェン・チウファン(陳 楸帆)が一〇本の短編小説として描き出している。各短編の後には、人工知能研究の世界的権威であるカイフー・リー(李 開復)が、小説で採用された一〇のトピックについて分かりやすく解説。フィクションとノンフィクションの融合の新しい形となっている。
恋愛の未来、教育の未来、医療の未来、アイドルの未来……ときて、八番目のトピックとして現れるのが、職業の未来だ。小説の題名は、「大転職時代」。AIの普及によって多くの職業が人間から奪われ、失業者は別業種への転職を余儀なくされる。その結果、近未来では転職斡旋業が社会的意義を高めている、という設定からして面白い。アメリカの大手転職斡旋業者シンチアのCEOのマイケル・セイバーは、数千人の建設労働者を再訓練・転職させる大プロジェクトの契約を勝ち取るべく画策していたが、正体不明の競合相手が存在していた。新人のジェニファー・グリーンウッドは、マイケルから直々に密命を受け、競合相手にまつわる調査を開始する。
本編三六ページとごく短い中に、現代のマスメディアが取り上げる「AIが人間から仕事を奪う」論の先の先が示されている。たとえAIがほとんどの仕事を担うことになったとしても、人間は趣味や娯楽として仕事をするはずだ……というよくある議論に対しても、新たなビジョンを提示。それらの論やビジョンが、登場人物たちへの感情移入を前提とした人間ドラマの中に書き込まれているからこそ、読み手は深い理解とともにそれらを受け入れることとなる。
電撃小説大賞出身の新鋭・周藤蓮の『バイオスフィア不動産』(ハヤカワ文庫JA)は、さらなる遠未来に広がる幻のような光景をみせる。内部で資源とエネルギーの全てが完結し、なおかつ住民が望むあらゆるものを生成できる設備も備えた「バイオスフィアIII型建築」の普及により、人類はみな自発的引きこもりとなった。そんな状況下でも、ごくごくわずかながら働いている人たちがいる。それは誰か? バイオスフィアを管理する不動産会社の新米クレーム処理係、ユキオとアレイだ。景観問題、異臭騒ぎ、隣人トラブル……。発想は奇想天外だが、ミステリーとしてのフェアプレー精神が貫かれた大満足の全五話だ。
『AI 2041』の解説担当のカイフー・リーによれば、AIにとって苦手分野は三つある。「創造性」「共感」「器用さ」。この三つを必須能力とする小説家の仕事は、今後も(しばらくは?)AIに代替されることはないだろう。