『世界史の中のヤバい女たち』
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すべての女性が望むことは何か?
[レビュアー] 黒澤はゆま(歴史小説家)
アステカ王国を滅ぼした17歳、復讐の鬼と化したウクライナ聖人、民を戦乱の世から救った中華最強の悪女――世界を変えた女たちはどのような人生を歩んだのか?
歴史に名を残す女たちの生涯と知られざる史実の裏側に迫った新書『世界史の中のヤバい女たち』を刊行した歴史小説家の黒澤はゆまさんが、世界を揺るがした女性の処世術を考察しながら、新書刊行の意図を語った。
黒澤はゆま・評「すべての女性が望むことは何か?」
すべての女性が望むことは何か?
そう聞かれたらあなたはどう答えますか?
こんな問いをテーマに、古今東西の女性の「ヒーロー」のお話を集めたのが本書です。
取り上げた女性には、ナイチンゲールやジャンヌ・ダルクのような有名人もいれば、アステカ王国を滅ぼしたマリンチェ、大航海時代のポルトガルを何度も破ったアンゴラの女王ンジンガなど、あまり日本では知られていない人物もいます。
私が子供の頃、書店に並ぶ偉人達の伝記といえば、男九に対し、女一くらいの割合だったように思います。
今は少しはましになったようですが、読んでみると、女性の場合は、優しさや自己犠牲をより強調して書かれる傾向がまだまだ強いようです。
そうした特性はとても素敵なことだし、彼女たちに実際に備わっていたのは間違いありません。
ただ、この残酷な世界をサバイブし、さらに衆に抜きん出るには、善人であるだけでは不足なはず。
知恵と体力に恵まれているのは勿論、狡猾で、抜け目なく、時に非情かつ残忍であることも必要だったでしょう。
例えば、クリミアの天使の異名で知られるナイチンゲールは、近代看護の祖ということで、患者への奉仕と献身ばかりが注目されがちでした。
しかし、彼女は鶏頭図と呼ばれるグラフを生み出した統計学者でもあり、また、ナポレオン戦争を生き抜いた老雄達を屈服させ、イギリスの社会福祉政策の改革を主導したフィクサーの一面も持っていました。
彼女はその人生を通じ、家族、同僚の看護師、イギリス陸軍、政府、周囲の人々と激しく衝突し、ついには盟友ともいうべき男性を過労死に追いやります。こうした過剰さは、男だったら大目に見られ、褒め称えられることすらあるのに、女の場合、覆い隠され、なかったことにされるのは逆に不平等に見えます。
私は彼女たちの一般には「負」ととらえられる側面もそのまま書くようにしました。現在の女性が生き抜くに必要な情報だと考えたからです。
女だってヤバい存在である権利があるのです。
また書き進めていくなかで、男性にはない女性ならではの「呪い」があることにも気づきました。
それは何か? というのもまた、冒頭の問いと並んで本書のテーマです。
当の女性は勿論、友人、同僚、部下、上司、父親、息子、きょうだい、恋人・夫、様々な形で女性と関わる男性も、本書を読んで欲しいと思っています。
そして、二つの問いに読者の皆様がそれぞれの答えを得、愛する人たちにもっと優しく賢明になれたら、著者としてこれ以上の幸せはありません。