飛行中の旅客機という巨大な密室で執拗なまでのどんでん返し!

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座席ナンバー7Aの恐怖

『座席ナンバー7Aの恐怖』

著者
セバスチャン・フィツェック [著]/酒寄 進一 [訳]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784167920340
発売日
2023/04/05
価格
1,166円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

雲をつかむ死〔新訳版〕

『雲をつかむ死〔新訳版〕』

著者
アガサ・クリスティー [著]/田中 一江 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784151310102
発売日
2020/06/18
価格
1,210円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

飛行中の旅客機という巨大な密室で執拗なまでのどんでん返し!

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 大空を行く巨大な密室で、どんでん返しの嵐が吹き荒れる。セバスチャン・フィツェック『座席ナンバー7Aの恐怖』(酒寄進一訳)は、旅客機内を舞台にしたスリラーの快作だ。

 精神科医のマッツ・クリューガーは、出産を控えた娘のネレに会うために、極度の飛行機恐怖症を我慢してベルリン行きの便に乗っていた。ところが離陸後、彼に謎の人物から電話が入り、ネレを誘拐したと告げられる。更にその人物はとんでもない事をマッツに要求する。娘を助けたければ、ある手段を用いて飛行機を墜落させろというのだ。

 登場人物をとことん危険な状況に追い込み、この上なくスリリングな展開を生み出すのがフィツェックの得意技だ。本作では飛行中の旅客機という完全な閉鎖空間に主人公を投げ込み、しかもタイムリミットを設けて危機を煽る。さらに誘拐された娘ネレの視点からも物語を描き、物語をより錯綜したものに仕立てていく。全方位的に緊迫感を醸しだす手腕がお見事だ。

 フィツェックは執拗なまでにどんでん返しを仕込む作家だが、本作でもそれは健在。こう来るか、という展開の連続でどこまでも読者を翻弄するのだ。

 スリルとサスペンスを生み出す格好の舞台として飛行機を選ぶミステリは、古くから書かれている。古典作品ではアガサ・クリスティー『雲をつかむ死』(田中一江訳、クリスティー文庫)。ロンドン行きの飛行機内でひとりの老婦人が死に、その死因に疑問を抱いた名探偵エルキュール・ポワロが調査に乗り出す。列車・船・旅客機と、あらゆる乗り物と絡めてクリスティーは謎解き小説を書いた。

 航空サスペンスのオールタイムベストといえば、ルシアン・ネイハム『シャドー81』(中野圭二訳、ハヤカワ文庫NV)だ。ホノルル空港に向かう旅客機が、最新鋭の垂直離着陸戦闘爆撃機に背後を取られジャックされる。航空機が航空機を乗っ取るという大胆な着想が素晴らしい。犯人側が計画の準備を進める過程も緊張感があり、原書刊行から半世紀近い時が経つ今でも魅力が色褪せない。

新潮社 週刊新潮
2023年4月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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