<東北の本棚>社会制度の不作為訴え

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シングルマザー、その後

『シングルマザー、その後』

著者
黒川 祥子 [著]
出版社
集英社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784087211955
発売日
2021/12/17
価格
1,012円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>社会制度の不作為訴え

[レビュアー] 河北新報

 雇い止めや学校の一斉休校…。新型コロナウイルス禍は、シングルマザーをさらなる生活苦に陥れた。生活を切り詰めながら懸命に子育てし、子を自立させても、その後に待っている過酷な現実。自身もシングルマザーの著者が、女性たちの悲痛な叫びを丁寧に拾い、専門家へのインタビューを織り交ぜて、社会制度の不作為を明らかにしたノンフィクション。

 国民生活基礎調査(2020年)によると、母子世帯の平均所得額は306万円。日本のシングルマザーは世界で1番働いているにもかかわらず、世界で最も貧困にあえいでいる。

 子の進学に伴い多重債務に陥り、自己破産した人や、トリプルワークがたたりうつ病となった人。登場する50代の女性6人は、必死に働き子どもを育てただけなのに、穏やかな時間を送れないでいる。なぜか。

 女性の貧困元年は、1985年とされる。男女雇用機会均等法が成立した陰で、国は「男性に扶養される専業主婦を優遇するため」(著者)、「国民年金第3号被保険者」制度などを次々と導入。さらに、母子家庭の生命線である児童扶養手当に、2段階の所得制限を設ける。「国により強いられた貧困を、シングルマザーは生きている」と著者は訴える。

 フランスでは、子育て家庭全体に対する経済支援と社会福祉支援が整い、大学まで教育費は無料だ。韓国には「ひとり親家庭支援法」がある。世界的にみても、日本の施策は遅れている。最低賃金の引き上げ、養育費の取り立て制度の導入、長時間労働の改善。国がすべきことは他にある。自助ではなく相互扶助を。彼女たちの叫びを無視してはならない。

 著者は伊達市生まれ。2013年に「誕生日を知らない女の子 虐待-その後の子どもたち」で開高健ノンフィクション賞受賞。(郁)
   ◇
 集英社03(3230)6391=1012円。

河北新報
2022年4月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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