『バレエの世界史』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『バレエの世界史』海野敏著(中公新書)
[レビュアー] 小池寿子(美術史家・国学院大教授)
優美な動きで私たちを魅了するバレエ。本書は、身体美の極致を追求するバレエの成立と展開を、歴史を俯瞰(ふかん)しつつ活写する。
ルネサンス期の様式化した祝祭と舞踊にはじまるバレエは、近世近代にはその地歩を固めるが、背景には激動する国家戦略闘争という闇があった。
光と闇。バレエを育てた欧米諸国の政治体制や、日本東洋での受容への目配りが本書に軽妙なリズムを与え、単なるバレエ史を越えている。16世紀も興味深いが、圧巻はロマン主義から総合芸術へ、そして「空前絶後の最強バレエ団」たるバレエ・リュスへの道のりからモダニズムへの展開だ。
さらに読者に大きな疑問を投げかける。バレエは不自然な姿勢や動作を強要する。バレエに限らずスポーツは身体の可能性を追求し、身体の極限に挑もうとする。人はなぜ、それを美とするのだろうか。
毎年百数十本の舞台を鑑賞する著者の愛と情熱に圧倒されながら、戦いと祝祭と美の微妙な関係によって織りなされる歴史を辿(たど)る。モダニズムの極致としての位置づけを明確にする終章は必読。喝采。