<書評>『バレエの世界史 美を追求する舞踊の600年』海野敏(うみの・びん)著

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バレエの世界史

『バレエの世界史』

著者
海野敏 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
芸術・生活/音楽・舞踊
ISBN
9784121027450
発売日
2023/03/22
価格
1,034円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『バレエの世界史 美を追求する舞踊の600年』海野敏(うみの・びん)著

[レビュアー] 長谷部浩(演劇評論家)

◆時代の変化受け進化

 図版は最小限、文章と表で構成された六百年の歴史と聞くと、無味乾燥な教科書が想像される。ところが、読んでいて、これまで腑(ふ)に落ちなかった伝播(でんぱ)の歴史が明らかになり、実に刺激的で面白い。舞踊を美学のみならず、政治や経済の視点から読み直しているからだ。

 十五世紀イタリアで生まれた「前バレエ」は、フィレンツェの大富豪メディチ家出身、十四歳のカトリーヌが、フランス国王フランソワ一世の第二王子アンリ・ド・ヴァロアと結婚したところから新たな展開がはじまる。婚姻と結婚披露がバレエの肥沃(ひよく)な土壌となった。王侯貴族自らが踊る余興としてのダンスから、職業ダンサーが劇場で見せる観賞芸術へ。貴族からブルジョワジーへと支持層が変わり、その好尚がバレエの内実を変えていく。

 自立した至高の芸術ではなく、時代の変化を受け止め、流転を経て進化していく経緯を描く、スリリングな読みものだ。バレエが持つ「自己変革の力」を強く信じる著者の愛情が伝わってきた。

(中公新書 1034円)

1961年生まれ。舞踊評論家、東洋大教授・図書館情報学。

◆もう1冊

『ヴィジュアル版 ダンスの歴史』ロバート・ヒルトン著、高尾菜つこ訳(原書房)

中日新聞 東京新聞
2023年7月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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