『首都の議会 近代移行期東京の政治秩序と都市改造』池田真歩著(東京大学出版会)

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首都の議会

『首都の議会』

著者
池田 真歩 [著]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784130266123
発売日
2023/03/29
価格
7,700円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『首都の議会 近代移行期東京の政治秩序と都市改造』池田真歩著(東京大学出版会)

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

地域の政治 党派と一線

 近代の日本では、議会制度の導入が早くから模索され、戦争中にも国会が開かれていたことに表れているように、中央・地方の議会政治がしっかりと維持され続けた。欧米以外の国では珍しい事例である。従来の歴史研究は、これを可能にした大きな要因を、利益政治のしくみに見いだしている。明治末期から現在に至るまで、地域からの要求を政策に盛り込み、利益を住民に分配することを通じて、政党は地域に基盤を確立したと説明されるのである。

 ところが地域社会の実情に即して見れば、政党による住民の組織化は、必ずしも進んでいない。中央政治における党派対立と、地域の政治とが別々に動きながら全体の秩序を支える、ある意味で奇妙な構造が成り立っているのである。本書は明治時代の東京を例にとって、この構造ができあがる歴史過程を明快に分析して示す。政治史・経済史・社会史・都市史の複数の視点を組み合わせ、豊かに存在する史料を広く参照した、全体史の叙述の試みである。

 明治の東京においては、言論人が府会・市会の議員となり、経済人は商法会議所に集まるという住み分けが、早い時期に確立していた。これに対して地域住民の組織が、江戸時代にあった町や身分集団の区別をこえる形で、新たに作られた広域の「区」を単位としてできあがる。そして中上層の住民たちが、区会と有志による公民団体との双方に集まり、費用を持ち寄りながら教育や衛生事業を進める体制が定着した。やがて市会を政党が支配する時代になっても、区会・公民団体にまで党派の影響が浸透することはなく、むしろ区会が市の反対勢力として独自に動くようになるのであった。

 現在にまで続く、地域の政治と社会の構造は、いかにして生まれたか。東京という特殊な事例ではあるが、広く全国に関してその問題を探るための情報豊富なモデルが、ここに示されている。

読売新聞
2023年6月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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