『封鎖法の現代的意義 長距離封鎖の再評価と地理的限定』浦口薫著(大阪大学出版会)

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封鎖法の現代的意義

『封鎖法の現代的意義』

著者
浦口 薫 [著]
出版社
大阪大学出版会
ジャンル
社会科学/法律
ISBN
9784872597752
発売日
2023/04/10
価格
4,840円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『封鎖法の現代的意義 長距離封鎖の再評価と地理的限定』浦口薫著(大阪大学出版会)

[レビュアー] 小泉悠(安全保障研究者・東京大准教授)

海上封鎖 国際法で考察

 読書委員会で「なんか難しそうな本ですね」という意見が出たのが本書である。しかし、実際に手に取ってみると、存外にエキサイティングな一冊であった。戦時に敵国の海上交通を封鎖する作戦(海上封鎖)について、国際法の観点から考察したものである。

 ただし、本書のいう海上封鎖とは、敵国と中立国との通商を遮断する作戦を狭く指し、敵国商船を攻撃する通商破壊とは異なる。したがって、焦点となるのは、戦争当事国が中立国の商業的利益をどこまで制限しうるのかであり、特に敵国沿岸から遠く離れた海域での封鎖(副題にある「長距離封鎖」)が許されるのか否かが問題となる。と聞くと「やっぱり難しそうだな」と感じられようし、実際、そう気軽に読める本ではない。

 それでも本書はエキサイティングである。例えば海上封鎖はなぜ生まれたのか。それは帆船の登場が大航海時代の到来に繋(つな)がったことと関係するという。蒸気船の登場や大砲の長射程化はまた新たな変化をもたらしたし、その後も軍事技術と海運の発展によって、海上封鎖をめぐる議論は大きく変化してきたことが本書を読むと分かる。

 法学の素人からすると、なるほど法とはこのようにダイナミックなものか、という素直な驚きがあった。著者が現役海上自衛官であるというバックグラウンドも、一見無味乾燥な法律の文言解釈を生き生きと「読ませる」力になっている。

 しかも、ウクライナの穀物輸出に対するロシアの妨害が国際問題になったことは記憶に新しい。その後、トルコ等の仲介で穀物輸出の安全を保障する合意が成立したが、これは海上封鎖が歴史の中の出来事でないことを証明するものだ。台湾有事に関しても同様だろう。本書のタイトルが謳(うた)うとおり、海上封鎖は未(いま)だ「現代的意義」を持つのである。

読売新聞
2023年6月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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