「バスに乗り遅れるな」というチャットGPT狂騒曲の中で冷静な視座が得られる一冊

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チャットGPTvs.人類

『チャットGPTvs.人類』

著者
平 和博 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166614134
発売日
2023/06/20
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「バスに乗り遅れるな」という狂騒曲の中で一番冷静な本

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 気がつけば、チャットGPTが大ブームだ。米国のベンチャー企業が開発した対話型ソフトで、大量の学習データを読み込み出力する大規模言語モデルだという。そう聞いても、よく分からないが。

 チャットGPTは、質問すれば物知り博士のように答えてくれるし、文書作成が大の得意。コンピュータのプログラム作業も可能だ。膨大な情報量と人間のような自然な対応が特徴という、実に便利な道具らしい。

 昨年11月に公開され、ユーザー数は2ヶ月で1億人を突破。日本のユーザー数は世界のトップ3に入る。関連本をチェックすると数百冊が並んでいた。「こんなに役立つ」というハウツー系が多く、「バスに乗り遅れるな」の雰囲気がある。選んだのは、平和博『チャットGPTvs.人類』。理由はシンプルで、この本が一番冷静だったからだ。

 著者によれば、チャットGPTは回答内容の真偽について判断は行っていない。「もっともらしい」回答を出力しているだけだ。しかも事実とは異なる作り話の回答をする「幻覚」と呼ばれる現象も起こす。今のところ、人間のような「価値判断」は出来ないのだ。

 さらに「5大リスク」を挙げている。プライバシーの侵害、企業秘密の漏洩、雇用の喪失、サイバー犯罪、そして制御不能な進化への懸念だ。著者は「AIにできることと人間にしかできないことの整理」の重要性を説く。喧伝される「万能さ」の背後に隠れた、知性の「空洞」が問題だ。

新潮社 週刊新潮
2023年7月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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