『沖縄有事 ウクライナ、台湾、そして日本――戦争の世界地図を読み解く』牧野愛博著(文芸春秋)

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

沖縄有事 ウクライナ、台湾、そして日本――戦争の世界地図を読み解く

『沖縄有事 ウクライナ、台湾、そして日本――戦争の世界地図を読み解く』

著者
牧野 愛博 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163916859
発売日
2023/04/11
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『沖縄有事 ウクライナ、台湾、そして日本――戦争の世界地図を読み解く』牧野愛博著(文芸春秋)

[レビュアー] 小泉悠(安全保障研究者・東京大准教授)

どう守る 日本社会に問う

 米国の核戦略家として知られるハーマン・カーンは、1962年の著書に『考えられないことを考える』というタイトルをつけた。米ソ冷戦下で、人類の破滅を引き起こさずして核戦争を戦う方法を考える、というのがテーマだ。このように、軍事戦略家とは戦争=破滅と捉えず、戦争という全体としては最悪の状況下でいかにして「最悪の中の最善」を実現するかを考えようとする人種である。

 本書の著者である牧野愛博氏は朝日新聞のジャーナリストだが、その思考様式はまさに「考えられないことを考える」である。台湾海峡を巡る緊張が米中の直接戦争に至った時、日本に何が起きるのか。現在の日本には何ができて、何ができないのか。そしてこれから何をすべきなのか。

 浮かび上がってくるのは、日本の政治と社会が安全保障について考えているようで考え抜けていない、という姿だ。2022年の防衛三文書改訂では中距離ミサイルによる反撃能力の保有が明記されたが、実際にその能力をどう使うのかは明確でない。有事の離島住民避難も十分ではないし、三自衛隊の統合運用についても明確なビジョンが見えてこない。さらに著者は、米国による核抑止をいかに確保するのかについても日本政府の姿勢が中途半端であることを強く批判する。

 このように書くと、いかにもタカ派の議論と見えよう。しかし、本書では宮古島や与那国島といった最前線の島々に暮らす人々や地元自治体の声も丁寧に拾い、沖縄戦において軍が住民を守らなかった歴史にもかなりの紙幅を割く。

 その上で、最終的に日本の安全を守るためには国民的な議論が不可欠だというのが本書の結論だ。我々は何を実現し、何を避けようとしているのか。このような議論なしではどれだけ新鋭兵器を揃(そろ)えても有事には腰砕けになる。そのような危機感が透けて見える。国防より外交とか、弱腰ではいけないとかいったステレオタイプの議論を脱して、日本人が日本をどうしたいのかが今後の安全保障政策において問われていると言えよう。

読売新聞
2023年7月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク