『魔術師列伝 魔術師G.デッラ・ポルタから錬金術師ニュートンまで』澤井繁男著(平凡社)

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魔術師列伝

『魔術師列伝』

著者
澤井 繁男 [著]
出版社
平凡社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/心理(学)
ISBN
9784582703672
発売日
2023/03/17
価格
3,080円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『魔術師列伝 魔術師G.デッラ・ポルタから錬金術師ニュートンまで』澤井繁男著(平凡社)

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

近代科学の「祖先」たち

 「ファンタジー」は、物語のあらゆる表現媒体で大人気だ。その定義は様々あろうが、私は、「作品世界固有の魔法が存在する物語」がファンタジーであり、それら固有の魔法の力を駆使するキャラクターが「魔法使い」=「魔術師や錬金術師」だと、ひとくくりにして考えてきた。お恥ずかしゅうございます。

 本書の冒頭に明記されている。中世から近代のはざまに活躍した歴史上の魔術師と錬金術師は、ざっくり「魔法使い」とまとめてしまっていいような存在ではない。アニミズムの立場に立ち、自然の裡(うち)(奥底)に霊魂(命)を求めて、自然を「質」で理解しようとした自然魔術師と、土中の鉱物の裡に霊魂の存在を認め、それを救済し、その後人間を救おうと志向する錬金術師は、共有する理念はあっても、似て非なるものだという。ただし、一神教で、人間の霊魂を救うことを第一義とするキリスト教からは、どちらも異端の烙印(らくいん)を押されてしまう。

 本書は二部構成になっており、前半の「魔術師列伝」では、中世来の古い自然観と、ガリレオ・ガリレイの登場によって拓(ひら)かれる近代科学の自然観との途上に存在した自然魔術師の時代を、実在した魔術師たちの生涯と活動を語りながらたどってゆく。この自然魔術師たちの存在は、「二〇世紀の後半まで知られていなかった」。確かにブルーノ、カンパネッラなどの名前は、物語を通して実在する数々の大魔術師を知っている(はずの)私たちにも、馴染(なじ)みが薄い。一方、後半の「錬金術師列伝」でニュートンと並んで一章を割かれているパラケルススは、その出現によって錬金術の「医化学派」が誕生し、これが近代内科学の発端となるという、現代の私たちの暮らしに直結している重要人物だ。そういえばゲームやコミック内のキャラとして何度かお会いしたことがあるような……。二百ページほどの本書をひもときながら、何度も自分の浅学と思い込みに冷汗をかいてしまった。

読売新聞
2023年7月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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